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読書日記 松村雄策『僕の樹には誰もいない』 もしかしたらすごい孤独だ


■松村雄策・著 『僕の樹には誰もいない』 河出書房新社


本屋さんに行ったら、松村雄策の本が出ていた。松村雄策は、60代の半ばに脳梗塞をやり、最晩年は癌の全身転移で倒れて、今年の3月に亡くなっている。だから、多分、これが最後の本だ。松村雄策名義の単著では、これで10冊目だ。

生前の本人も、10冊目を出すことに意欲をみせていたと、編集者の書いた「あとがき」にあった。この本が、原稿を掲載していたロッキング・オンではなく、河出書房新社から出ている理由も「あとがき」に書いてあった。

タイトルの『僕の樹には誰もいない』は、ビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」の一節だ。

松村雄策には、『苺畑の午前五時』という小説がある。昔に読んだけれど、中高生が出てくる青春小説だったような気がするが、何が書いてあったか、まるで憶えていない。憶えていないけど、出版当時、松村雄策が、高橋三千綱の『九月の空』を誉めていたのは記憶にある。青春小説として、意識していたのだろうか?

私が高橋三千綱を読んでいたのは、高校生の頃だから、1970年代だ。その数年後に、松村雄策の文章に、高橋三千綱の名前が出てきたので、驚いたのだった。その高橋三千綱は、松村雄策の半年くらい前に、やっぱり癌で亡くなっている。

私は松村雄策の「苺畑のヒッチハイカー」という曲が好きだ。私は61歳になった今でも、なにかの瞬間に、この曲が頭の中に流れてきて、口ずさんでいる。子供の頃や思春期に、衝撃を受けたものごとを、そのまんま引きずって今日まで来てしまったなあと、自分のことを思う。

私が中学3年の時に、RCサクセションがアルバム『シングルマン』を出した。私はこれこそがロックだと、カセットテープに録音して、ラジカセごと持っていって、当時、レコードを貸し借りしていた仲間の3人に聞かせた。が、誰一人、いいと言うやつはいなかった。気持ち悪い、悪趣味だという反応が大半だった。

当時、やっぱりレコードを貸してくれたりしていた二人の年長者にも聞かせた。彼等は「お前は何もわかってないなあ、こんなもののどこがいいのだ」といった感じで私のことを小馬鹿にしてきた。

その時の彼らの名前と顔を私は未だに憶えている。その後、RCがブレイクした時の彼らの5人の変節した反応も、私はチェックしていたので、忘れていない。その後、彼等とはずっと親しくしているのだが、あの時のことは、忘れていない。といっても、私はエレキバンドになってからのRCは、あまり評価していない。

なんでこんなことを書くかというと、松村雄策の文章を読むと、この種の感情が蘇ってくるのだ。同時に、お前はこういう人間なのだと、突きつけられるようで、少し困る。でも、本当は、楽しいのだ。

久しぶりに松村雄策の本を読んだが、書いてあるのは、ビートルズやアニマルズ、キンクスやフー、ビーチ・ボーイズといった60年代から活躍しているバンドやミュージシャンについてで、何も変わっていなかった。私とはほぼ10歳、違うのだが、読んでいると、ロック好きの仲間と世間話をしているような感じになって、楽しいのだ。

本書では、闘病については、簡単に触れているだけで、あまり詳しくは書き残していない。最後の十数年は、一人暮らしだったようなのだが、離婚なのか別居なのか、よくわからない。自分の子供や孫について少しは触れているのだが、詳しくは書いていない。

なんだか寂しいし、孤独なのだけど、掃除や洗濯、料理などもきっちりとこなす人だったようだし、寂しさや孤独には負けていない。というか、「だからなんだ、寂しかったり、孤独だったりするのは当たり前じゃないか」という感覚が伝わってくる。松村雄策のそういう感覚に、私は頼っているのだと思う。私は、松村雄策の、そういう読者なのだと思う。

この本を読んでるときは、あまり感じなかったけど、自分のこの文章を書きながら、松村雄策は、もしかしたら、ものすごく孤独だったんじゃないかと、思ってきた。根拠はなにかと聞かれると困るんだけど、ひしひしと孤独だ。

闘病のことも家族のことも、単に、書くほどの関心ごとではなかったのだ、とも思う。もしかして、原稿の発表場所が、ロッキング・オンという音楽雑誌だったので、テーマと合わないから、闘病を書かなかっただけなのかもしれない。他に発表場所があったら、もっといろいろなことを書いたのかもしれない。

なんでも自由に書いてもらったり、あるいは、ロック以外のテーマを決めて原稿を発注していたら、面白いエッセイを書いたのではないかと、今更ながら残念に思った。

とりあえず松村雄策のCD『Unfinishud Remembers』を聴こうと思う。少し前に、『イター・ナウ』のCDが出た時に、棚の奥から探し出していたので、聴こうと思えばすぐに聴くことが出来るのだ。

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