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読書日記 『東北の古本屋』被災古書店を営む人たちの生活史

■折付桂子・著『増補新版 東北の古本屋』(文学通信)

もともとは2019年に自費出版された本だ。それが、今回、増補新版となり、一般書店にも並ぶようになったようだ。おかげで私も読むことが出来た。なにより表紙のイラストがいい。このイラストに魅かれて、手に取ったのだった。

この本には、東北六県の古書店が網羅されている。実店舗だけでなく、ネット書店も漏れがない。過去に存在して廃業した店も、その経緯を記してある。いたれりつくせいの古書店情報だ。写真が全部カラーなのもいい。とにかく造本が素敵だ。

四十数年前、高校生だった私が店番をした〇〇書店も載っているし(だいぶ前に現在の場所に移転している)、小学生の時、生まれて初めてマンガ本を売りに行った〇〇書店もまだやっている。当時、身分証明書なんか持っていなかったのに、どうしたのか、記憶にない。中学生になってからは、生徒手帳を見せた気がするが、その頃には店主とは顔見知りになっていたし……。

大学時代に利用していた仙台の古書店は、1軒を除いて姿を消して、仙台の古書店風景は様変わりしていた。この本を読んだら、仙台の古書店巡りをしたくなった。特に蔵書10万冊を並べている萬葉堂書店には行ってみたい。

古書であれ新刊であれ、実店舗は、思いもよらない本と出合う場所だ。ネット書店では、そのような体験は出来ない。だから実店舗は必要なのだと思う。

しかし、自分が知っている岩手、宮城の頁は熱心に読むのだけれど、他の県に関しては、あまり熱心にはなれなかった。我ながらゲンキンなものだ。

この本を出している「文学通信」という出版社のことは、まるで知らなかった。調べてみたら、ホームページのようなブログを発見した。

住所が東十条になっている。昔、十条に住んでいたことのある私は、それだけで嬉しくなった。ここをみたら、日本語・日本文学の研究書を中心に、人文学書全般を刊行する出版社となっていた。これから注目しようと思う。

北区には、『離島の本屋』や、最近は『ヤジと民主主義』という良い本を出している「ころから」という出版社がある。私はそこの本に、いつも勇気をもらっている。といっても、その勇気を、役立てられていないので申し訳ないのだけれど……。

小さいけれど頑張っている出版社は、たくさんあるのだ。しかし、小さいから出版部数も少ないし、文庫にもならないし、なかなか流通しない。どうしたものだろうか。


『東北の古本屋』は、2011年に被災した東北の古書店が、どのように復興していくかを描いたルポだ。被災し、本棚が崩壊し、どの店もとんでもない状態になった。それらの古本屋が、その後、どのようにして日常を取り戻していったか、それぞれの店主たちに話を聞いてまとめてある。だから、この本は、普通の人が語る震災復興の生活史だ。

2021年の2月にも、福島沖の大地震が起きている。場所によっては、2011年の時よりも被害が多きかった。増補加筆分は、その取材分だ。


著者は福島県の出身者の女性だ。東京の、「日本古書通信」という出版社なのか雑誌社なのかよくわからないが、そこの人だ。1961年生まれとあるから私と同い年だ。震災直後から、なんとオートバイに乗って、東北の古書店をめぐって、その動向を取材している。

一度きりではなく、ある時期は毎年、ほぼ定期的に東北を巡っている。それは取材というよりも、肉親縁者の安否を自分の眼で確かめているかのようだ。「よりそう」という、最近は手垢にまみれているコトバがあるが、本来はこういうことなのだと思う。

あとがきには、東北へは、ご主人と一緒にバイクで回っていたとあった。しかし、最初の版を出した後に、ご主人を癌で亡くしている。だからその後は、一人で電車に乗って、東北、主に福島に通っている。このご夫婦の物語も、一冊の本になりそうだと思った。


そもそも、「日本古書通信」とは、なになのだろうか? ネットで検索してみたら、「日本古書通信」が出てきた。

タイトル未設定となって、うまくリンクが張れていないが、中に入ることは出来る。古書店業界の業界誌のようだ。月刊で750円とある。現物を見たくなったのだが、どうやら書店では売っていなくて、前金を振り込むと、送ってくる雑誌のようだった。

内容は、前半が古書店の業界情報で、後半には全国の古書店による選りすぐりの古書目録になっているらしい。創業80年を越え、通巻1100号を越えているとある。

ホームページの「新規開店情報」のボタンをクリックすると、『東北の古本屋』の本文と同じ文章も出てきた。著者はそこの編集兼ライターで、『東北の古本屋』は、ここで公開した文章をまとめたものでもあるようだった。

まだまだ知らない雑誌がある。『日本古書通信』、神保町に行ったら売っているだろうか?

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