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映画日記 和田秀樹・監督「私は絶対許さない」 老人向け新書と実験的な映画


※多分、一年くらい前に書いて、下書きに入れておいて、忘れていた文章だ。せっかくだから、公開してみる。




1 老人向け新書を量産する流行作家


本屋に行くと、新書本のコーナーには、何歳になったらどうたらこうたら、といったタイトルの本が大量に並んでいる。心と体に関する老人向けの本だ。

少し前まで、「60歳」を過ぎたらだったのが、今は「70歳」に年齢が延長されている。今時、紙の本を買うのは老人ばかりなのだ。その老人も、ちょっと前は60代が中心だったのだが、きっと今は、スライドして70代の方が多くなっているのだ。

実際、日中に本屋さんにいくと、お客のほとんどが、62歳の私よりも年寄りに見える人ばかりだ。笑えないけど、ディスクユニオンと一緒だ。

そういった老人向けの新書の代表的な書き手の一人が、和田秀樹だ。

和田秀樹をウィキペディアで見ると、私よりひとつ上の1960年生まれで、評論家で精神科医で臨床福祉士で映画監督で小説家で管理栄養士となっている。著作の欄を見ると、1980年代から本を出していることがわかる。

2000年代に入ると、年に2、30冊のハイペースで出している。受験のテクニックとか俗流心理学本とかだ。私には興味のない分野だったので、和田の本を読むことはなかった。

だから私が和田秀樹の名前を認識したのは、だいぶ遅い。多分、2015、16年の頃のことだ。

2 薬漬け医療を批判する精神科医


私は中年になるにつけ、薬物が苦手な体質になってきた。血圧や高コレステロールなどに処方されるごく一般的な薬が、効果よりも副作用の方が大きく出てしまうのだ。特に抗コレステロール薬など、7種類も試したが、全部に筋肉痛や激しい下痢といった副作用が出た。

そんななので、時々、薬についてネットで調べたり、本を読んだりしていた。その中の一冊に、和田秀樹の本があった。ウィキで確認したら、『だから医者は薬を飲まない』というソフトバンク新書だった。

内容は、日本の医療を薬漬けだと批判した本だった。一度読んだきりなので、記憶も曖昧だが、例えば、高血圧の薬は、その人の必要以上の量が出されていることが多いのだそうだ。

最近は、「血圧が130を越えたら要注意」ってことになっているが、これには医学的な根拠はないのだという。実際は、薬を売るために、基準を130に下げたのだそうだ。それによって、製薬会社と医者が安定して儲けられる仕組みが出来たのだ、といったことが、書いてあった。

その他に、減薬の必要も説いていた。簡単に言うと、医師の処方通りに薬を飲ませているのに、元気にならない老人が多い。試しに薬を減らしたら元気が戻ったから、薬は飲ませ過ぎだ、減らそうというハナシだ。特養老人ホームに居住している高血圧症と糖尿病の患者を対象に、減薬実験をして得られたデータがもとになっていた。

元気がなかった原因は、薬の過剰摂取だったという。薬の飲み過ぎで、低血圧気味や低血糖気味になっていたのだ。医師はもしものことを考えて適量よりも多めに薬を出す傾向がある。同時に日本人は真面目だから、薬をしっかりと飲む傾向があるのだそうだ。その結果、健康被害が出ているのだそうだ。

居住老人が元気になったので、介護施設では、我がままを言ったり自己主張する老人が増えて、手間が増えた、といったことも書かれていたように思う。

しかし、その本は、本人が書いたというよりは、喋ったことをライターが書き起こした実用書、といった大雑把な印象の本だった。その後、和田秀樹の本は、新書ブームもあって、やたらと新書で出るようになったが、結局、私はそれ一冊しか読んでいない。

その本を読んだちょっと後の、2016年の年初めのことだ。糞寒いのに、私はとあるところで庭掃除のボランティアを、二か月間くらいしていた。そこは、広い敷地の中に、特養老人ホームや介護施設、総合病院が集まった場所だった。

そこの特養と病院が、和田秀樹の本にあった減薬レポートの統計をとった施設だった。そのことに気が付いて、和田秀樹もちゃんとしている先生なのだなと思ったのだ。なんとなく、老人医療界の近藤誠みたいなのかな思って、その名前を再認識したのだった。

3 実験作で話題になる映画監督


その後、私はボランティアを卒業して、とある介護施設に勤めた。夜勤の自信がないので、デイ・サービスだ。仕事の中には、利用者の送り迎えの車に同乗する、添乗というのがあった。

帰り道では運転手さんがいつもカーラジオをかけた。チャンネルは文化放送だったと思う。時々、和田秀樹が出て来て、最新の医学情報や家庭で出来る健康法などを語っていた。

その際、決まって、「映画監督でもある和田先生」と紹介されるのだった。映画監督といったって、医者の先生だし、教育映画でも撮ったのかなと私は思っていた。

それっきり和田秀樹のことは忘れていた。


2022年、無職になった私は、暇にあかせて、GyaOで無料配信の映画を見まくっていた。GyaOは、2023年の3月末になくなってしまったが、終わりが決まっていたせいか、その頃は大量に邦画がアップされていた。その中に、『私は絶対許さない』という映画があった。

2018年公開だから、今から数年前の作品だ。この映画は、前半は青森が舞台で、友川カズキや三上寛、まだ亡くなっていない隆大介らが出ていた。私は友川カズキのファンなので、それでこの映画を見ようと思ったのかもしれない。

他にも、美保純や東てる美、児島みゆきなんかが出ていた。私のほんの少し上の世代(まさに和田秀樹にはど真ん中なんだと思う…)が喜びそう配役だった。


4 主観カメラで撮った強烈なシーンがトラウマになってしまった


前半は、15歳の少女が集団レイプされて、それが原因で学校や家から排除されて、なぜかレイプ犯の父親の愛人になり、売春をしてお金を貯めて、そのお金を持って、犯人たちに復讐を誓って上京するというハナシだった。

後半は東京が舞台で、主人公は、整形手術を受けて別人になって、昼間は普通に働いて、夜はなぜかSMの女王になって働いて、っていうハナシになって、私は、そのあたりで見るのが嫌になったのだった。

カメラアングルが、常に誰かの視線という実験的な映画だった。主観カメラというらしい。その効果もあって、前半最初のレイプシーンは、恐ろしく強烈だった。意図的に官能的じゃないようにしたのだと思うが、暴力が本当にすさまじいのだ。

後半は、でも、普通に復讐をしていくという展開にはならなかった。そのせいか、あまり憶えていない。前半と後半を、別の女性が演じていて、いくら整形したとはいえ、あまりに違う顔なので、別の映画みたいなのだ。

結末も忘れてしまった。とにかく後半は、私には、わけがわからなかったという印象が強い。

でも映画を観ながら、公開されたとき、話題になっていたことを思い出した。隆大介が全身刺青のヤクザ役で、主人公の女の子とお風呂に入っているワンシーンが、テレビでも紹介されていた。実話の映画化ということも、レイプ犯を実名を出して告発しているということも、話題になっていた。

GyaOで見終わったあと、一体誰が監督したのだろうと確かめたら、それが和田秀樹だった。映画監督って、こういう映画を撮っていたのかと、驚いたのだ。

被害女性が書いた原作本もあった。近所の古本屋にあったので、つい買ってしまった。和田秀樹は、原作本にも絡んでいて、解説を書いていた。この本も、私には本当にわからなかった。

和田秀樹は、著者のことを乖離性人格障害だとかなんとか、精神科医として分析していたのだが、病名がついたからって、腑に落ちるわけでもなし、映画化に際して、レイプ犯達の実名を挙げることで復讐に手を貸すのもどうかと思うし、なにより映画の出来とは無関係だと思ったのだ。って、もはや映画の印象も本の印象もごっちゃになっている。

とにかく、思い切り混乱させられた映画と原作本だった。本屋さんで、和田秀樹の新書を見かけるたびに、この映画のレイプシーンが蘇ってきて、気が滅入るのだ。なんだかトラウマにみたいになっているのだ。

そして、和田秀樹は、大量の著作はあるし、お医者さんだし、映画も作るし、能力とか才能といったものは、ある人にはあるんだなと、羨ましく感じるのだった。

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