マンガ日記 真崎守のこと
先日、『イコール』という雑誌を買った。創刊00号が出ていて、5月に01号が出た。季刊のようだ。
出しているのは橘川幸夫さんという人だ。むかし、『ロッキングオン』の創刊に携わり、写植屋さんをやり、その後、『ポンプ』という雑誌を創刊し、その後は、ビジネス書のような本を何冊か出したり、デジタル・メディア研究所という会社をやったり、2000年の頭には、メーリング・ポンプというメルマガのようなことをしていた人だ。
一体何をやる人なのかは、いまいちわからないが、デジタル・メディア研究所は今でもちゃんと続いているようだし、今回の新雑誌の発行元にもなっている。
そもそも、橘川幸夫さんは、「note」や「Facebook」などのネット上で、色んな活動をして、積極的に情報発信をしている。特に「note」では、いくつものオンライン会議みたいな有料コンテンツをやっている。有料コンテンツだけど、元を取るとか商売にするとかいうのとは違った、参加者同士が対等な立場の双方向のシステムになっているようだ。それらをもとにして、今回の『イコール』という雑誌も出来ているようだ。
私は自分自身が何かやりたいわけでもないから、それらには何一つ参加していなくて、課金されない部分だけを時々見ていた。正直、色んな企画がたくさんあって、よくわからないのだ。
中に、月額1000円で、岩谷宏の文章が読めるマガジンがあったり、やっぱり有料で真崎守に関するマガジンがあったと思う。それらは気になっていたが、中身が全然読めないので、何が書いているのかはわからなかった。
雑誌『イコール』の01号には、岩谷宏の連載があった。何十年ぶりかで岩谷宏の文章を読んだが、相変わらずの岩谷節で、刺激的だった。また、真崎守に橘川幸夫さんが会いに行ったレポート記事もあった。
冒頭に貼り付けた写真は、その記事にあった写真をスマホで撮って、無断引用したものだ。すいません。このスポーツ刈りの人が真崎守のようだ。
真崎守は、主に60年代末から70年代半ばにかけて活躍したマンガ家だ。小学校中学年だった私は、真崎守のマンガを読んで、体と心の成長がまだだったにも関わらず、無理やり思春期に突入させられたのだった。だから私にとって真崎守は、少し特別なマンガ家だ。
真崎守は、その後は、アニメの監督になったりしたらしいが、2000年代に入ってからは、何をしているのか。まったくわからなくなった。情報が流れてこなかったのだ。
橘川さんの文章を読んだら、真崎守はしばらく前から認知症になっていることがわかった。患っていると書いた方がいいのだろうか ? とにかく認知症の人だ。
なんだかそんなような気がしていたのだ。往年の人達は、どんな形にせよ、創作を続けていれば、誰もがネットで発信していた。ところが真崎守にはまったくそんな気配がなかった。私は病気かなんかが原因で引退しているのだろうと勝手に思っていたが、認知症の人になっていたのだ。でもお元気なようで、ちょっと嬉しかった。
私が真崎守のマンガを最初に読んだのは「ジロがゆく」だった。世の中は、エキスポ70とか、そんな頃だ。今から55年くらいも前のハナシだ。思い出すままに、今のうちに書いておく。
当時、我が家では講談社の『ぼくらマガジン』というマンガ雑誌を購読していた。本屋さんが毎週、配達してくれていたのだ。兄と私の二人で、『ぼくらマガジン』を読んでいたのだ。確か、最初は『月刊ぼくら』をとっていたのだ。それがなくなり週刊マンガ誌になったのが『ぼくらマガジン』だった。
同じ町内のH君の家では、『小学校四年生』と『なかよし』と『月刊別冊少年マガジン』を購読していた。学年誌はH君、なかよしは2歳上のお姉さん、月刊マガジンは4歳上のお兄さんがとっていた。
H君は私の家に来て『ぼくらマガジン』を読み、私はH君の家に行き、『少女フレンド』と『月刊別冊少年マガジン』を読んでいた。
この『月刊別冊少年マガジン』に、真崎守の「ジロがゆく」と、池上遼一と平井和正の「スパイダーマン」が載っていたのだ。
「ジロがゆく」は、少年誌に連載していたけれど、少年マンガではなく、あえてジャンル分けするとしたら、「思春期マンガ」だった。ラブコメなどと違って、異性に目覚める少年がシリアスに描かれていた。
主人公のジロが、同級生の女の子を見つめる視線がメインに描かれていたり、その見つめられる同級生の女の子は、5頭身か6頭身の絵柄だったけど、胸や下半身が、明らかに男の描線と違って肉感的な女性として描かれていた。永井豪の健康的なスケベマンガと違って、ジロの視線は、自分の内側に芽生えた性欲を抱えてまだコントロールできない男の子の眼差しなのだった。
「スパイダー・マン」には、浜辺で遊ぶビキニ姿の女性の写真をそのままはめ込んだような、マンガとしては稚拙な表現が多かったが、もんもんとする主人公が描かれており、私にはやっぱりバカでかいインパクトがあった。
これらの二つのマンガに接することで、私の世の中の見方が変わってしまった。まず第一に、世の中の男が、女性を見るときの視線が気になるようになったのだ。例えば、ミニスカートの女性を見ている男たちの視線なんかだ。我ながら屈折していると思うのだが、私の興味は、直接、女性の体には向かわないで、女性たちを性的に見ている男たちの視線に過剰に敏感になったのだった。
男の人達が本当に気持ち悪く見えてきたのだ。同時に、マンガに描かれた女性の体を意識的に眺めるようになった。よくあるパターンではあるが、現実の女性よりも、二次元の女性の方が、当時の私にはリアルだったのだ。
とにかく「ジロがゆく」は私には衝撃的だった。今思うと、私はまだ子供だったのに、無理やり性に目覚めさせられたという感じだ。現実の女性にはまだ何の魅力も感じなかったが、私は真崎守の描くマンガの女性や、池上遼一の描くマンガの女性には、明らかに性的に反応するようになったのだった。
それから真崎守のマンガを探すようになった。「キバの紋章」が『少年マガジン』に連載されているのを発見したが、なんだかよくわからないマンガだった。
祖父の家に住み込みで働いていた青年たちの部屋にあった『ヤングコミック』では、「はみ出し野郎」の連載を見つけた。ものすごく興奮したが、小学生が買ったり立ち読みしたりするのは、『ヤングコミック』は、ちょっとハードルが高かった。
とにかく、真崎守を知ってから、私のマンガを見るときの見方が変わってしまった。どんなマンガでも、女性キャラをHな目で見てしまうようになったのだ。
例えば、『月刊別冊少年マガジン』には、江波譲二の「東京ムラマサ」(だったか…?)なんかが連載されていた。江波譲二の描く女性も、それまではなんにも感じなかったのに、急にHに見えだした。肉感的な大人の女性に見えるようになったのだ。
当時、我が家で購読していた『ぼくらマガジン』の連載マンガも、女性キャラたちが、妙にHに浮き上がって見えて来た。
例えば、「恐竜島」の旭丘光志の描く女性は、やけに肉感的な大人の女性に見えるようになった。タイトルも既に記憶の彼方だが、「あかい海」だか「かんごく島」とかいうマンガのヒロインのユキも、俄然、セクシーに見えだした。今にして思い返すと、てるてる坊主にしか見えないような丸い顔に三角形のワンピースを着た描線だったのだが、なぜか私の琴線に触れて、ほとんどロリコン・アイドルに夢中になるように目が離せなくなってしまった。
桑田次郎の描く「デスハンター」の女性は、アメリカ映画の女優に見えたし、坂口尚の「ウルフガイ」の女性は過剰に肉感的に見えた。タイトルも忘れてしまったが、土佐闘犬のマンガがあり、そこに出てくる女性キャラがまた肉感的で困った。
一度、そういう風にマンガを見てしまうと、少女や女性の描線を、私はそのような目つきでしか見られなくなってしまった。
その当時、もっともHなイメージを私が受け取ったのは、『少年キング』に連載されていた望月三起也の「ワイルド7」のユキだった気がする。ユキは、どう見ても、日本人の体形には見えず、月曜ロードショーなどで見るB級アクション映画に出てくる半裸の白人ヒロインに見えるのだった。
同じ時期に、『少年ジャンプ』に「キイガール」という連載があった。どんな金庫も破ってしまう女泥棒が主人公で、その彼女がやたらと裸になった。今にして思うと、マンガ家は、篠原とおるだったような気がしないでもないが、その体形がやっぱり日本人には見えなかった。
こういうハナシになると、きりがなくなる。私も高校生くらいになると、やっと現実の女性に興味が移るようになったが、その間、真崎守のマンガに触れてから、私は世の中やマンガを見る目つきが変わってしまっていたのだった。
その後、真崎守のマンガは、コンスタントに見られたのは、『少年チャンピオン』に連載された「エデンの戦士」と、『GORO』などに載った連作短篇くらいだけだった気がする。
1980年代に入って、ブロンズ新社?から、真崎守選集20巻というのが出て、真崎作品をまとめて読めるようになった。
それらに収められている真崎守のマンガ表現は、短篇には心理描写を視覚化した実験作も多かった。それらは実験作だったけど、完成度も高かったように思う。例えば名作と言われている石ノ森章太郎の「じゅん」と比べると、「じゅん」がただの直截的な実験に見えるくらい、真崎守は高い表現をものにしていた。
ある時期から、私は真崎守が描き下ろして新作マンガを発表してくれるのではないか、と待つようになっていた。でも30年待ってそんなことは起こらなかった。そして、今回、『イコール』の記事で、そんなことは実現しないことがわかった。その代わり、真崎守の奥さんのエッセイマンガが新連載になるようだ。それはそれで楽しみだ。
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