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読書日記 マイクル・コナリー著『正義の弧』デジタル機器とDNA

マイクル・コナリーの『正義の弧』を読んだ。文庫上下巻で2000円強。まあ、最近はそんなものだ。

映画でも小説でも、犯罪ものは、パソコンが捜査のアイテムの筆頭になって、もうずいぶんになる。お金のやりとりは、現ナマを奪い合うのではなく、ネット上での数字の移動だし、目撃情報よりも、防犯カメラの映像が決定的な役割を果たす。犯罪捜査は、足を使って調べるのではなく、DNA鑑定が決め手になる。

本書も、これらの条件からはみ出すことなく、DNA鑑定がものをいう。未解決事件の調査班である主人公たちは、DNA鑑定から、過去の二つの未解決事件を結び付けて、犯人に迫るのだ。また、犯罪歴や病歴といった個人データも、パソコン上の検索で瞬時に明らかになる。

そんななので、思ったより簡単に犯人は見つかる。

そんななので、ドラマは、犯人の追及の過程などではなく、他のところで描かれることになる。大抵、捜査する側が抱えている個人的な問題などがシリアスに描かれるのだ。それは、主人公たちの家族の問題や、組織内での立ち位置や人間関係の確執といったものだったりする。

それはそれで、リアルな現在や、矛盾を抱えたアメリカ社会を表していて、面白いのだが、パソコン出現以前のフィクションにあったダイナミックな面白みは、やっぱり感じられない。そういったものを描きたいのなら、物語の時代設定を過去にするしかないのかもしれない。

なんてことを考えながら、本書を読んだ。本書の主人公は、ハリー・ボッシュという名前のロサンゼルス市警察の元刑事だ。ボッシュが最初に登場した時は、ベトナム帰還兵で、年齢は40代前半だった。その後、30年以上の年月を経て、現在は70代前半になっている。彼の一人娘は、父親の後を継いで、ロサンゼルス警察の警官になっている。

ハリー・ボッシュ・シリーズは、30年以上続いているのだ。

今回ボッシュは、無給のボランティアとして、未解決事件解決班に登用されている。

ボッシュだけでは、現在を描ききれないので、しばらく前から、30代後半のレイネ・バラードという非白人の女性刑事が登場して、ボッシュとダブル主人公になっている。

今回は、このレイネが未解決事件解決班のボスで、ボッシュを起用したことになっている。レイネは、いわゆる中間管理職として、上司や部下や議員との間で翻弄されながらも、自分を貫く姿が、感動的と言えば感動的なのだが、でもそんなハナシ、他でいくらでも読むことが出来る、と思ったりした。わざわざ、犯罪小説で読みたいとは思わないのだ。

なんとなく小説というよりも、社会や組合に神経を配って作っている、昨今のアメリカ産のテレビドラマを見ているような気がしてくるのだ。

こんな感じでフィクションは、しぼんでいくのかもしれない。

ハリウッドの映画監督がこれまでのように映画が作れなくなったという理由で、まだまだ働き盛りの年齢なのに、最近は続々と引退を表明している。それにはまた別の事情があるのだろうけど、根っこにあるのは、このフィクションがしぼんでいく感じと同じもののような気がする。

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