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私的変態の二大巨頭 フレディとプリンス

最初にフレディ・マーキュリーを見た時は、衝撃だった。眼がギラギラしていて、エラが張っていて、出っ歯で長髪で、そして胸毛をさらけ出していた。化粧をしているようにも見えた。

かっこいいのか、かっこ悪いのか、判断がつかないけど、とにかくインパクトがあったのだ。

当時、中学生だった私にとって、胸毛をさらけ出している人間と言えば、高見山と007だけだったから、とんでもなくどぎつく見えた。後から気が付いたが、レッド・ツェッペリンのロバート・プラントも胸毛が少しあるのだが、そっちは気にならなかった。

その頃の覚えたてのコトバに、「変態」があった。フレディは、まさにその「変態」そのものに見えたのだった。

しかもその変態は、声がすごかった。ロックも歌うし、きれいなバラードも歌う。ミュージカルのような曲も歌うし、ポップ・ロックにはあまりない歌曲のようなメロディーの曲も歌うのだ。

その上、ピアノを弾きがたりをしたと思ったら、歩き回ってこぶしを振り回すような妙なアクションをしながら、朗々と歌いあげるのだった。

記憶は定かではないのだが、『ボヘミアン・ラプソディ』が発売されるより前に、私はクィーンのステージを見ている。といっても、フィルム・コンサートだ。

当時は、フィルム・コンサートといって、欧米のアーチストのステージを寄せ集めた有料の上映会があったのだ。1アーチストが1曲から数曲、レコード会社ごとに10アーチストも集めてあった気がする。1回の上映が、90分から150分もあっただろうか。チケットは、600円くらいだったと思う。主催は、地元のレコード屋さんだった。

そこで、クィーンを見たのだった。動くフレディは、大迫力だった。

当時、動くロック・ミュージシャンを見る機会は、NHKの「ヤング・ミュージック・ショー」か、このフィルム・コンサートしかなかった。ヤング・ミュージック・ショーは、基本的に一つのアーチストしかやらないが、フィルム・コンサートだと、複数の旬のバンドを見ることが出来るのだった。MTVが登場する数年前のことだ。

同じ時にイエスやキッスも見たのだが、イエスはメンバーが誰も動き回らないし、キッスはメイクが派手なだけで、フレディに比べれば、印象は地味だった。

その後、クィーンはヒットを連発し、誰もが知るヒットメイカーになっていった。ビッグになった後のフレディは、イメチェンして、ハードゲイ風になっていった。短髪で口髭をたくわえ、上半身裸で歌いまくる姿は、やっぱり変態だった。ミュージック・ビデオで髭のまま女装する姿も、やっぱり変態だった。

でもその頃にはすでに、フレディを上回る変態が出現していた。

プリンスだ。

プリンスを最初に見たのは、レコードでだった。ジャケットの両面か、中にあった印刷物の写真だ。ほぼ裸で、股間には女性用の下着を履いて、トレンチコートを羽織っていた。足元はハイヒールだった。顔は、やけにぱっちりしたお目々に、口髭があって、胸毛もあった。

完璧な変態だ。

これを変態といわずして、何が変態だろうか。

そういう極めつけの写真だった。





確か、ミック・ジャガーが気に入って、ストーンズのツアーの前座に起用したと何かで読んで、プリンスに興味を持ったのだった。レコード盤を聞くと、やけに薄いペラペラした音で、アルバム一枚丸ごと裏声だった。それはそれで変態性を感じた。まだ『999』のヒットを出す前のことだ。アルバムも4枚目くらいだったか。

だから、プリンスと言えば、音楽性よりも、私にとってはこの頃のルックスのインパクトが強いのだ。悪趣味という言葉が一番ピッタリくる風貌だった。

まず顔。 やけにキラキラした目と、それと相反する濃いひげ。両極端なものが一個の顔面に同居している印象だ。でも、同居はしているが、共存しているのかどうかはわからない居心地の悪さがある。

しりあがり寿のマンガに「ヒゲのOL」というのがあったが、まさにあんな感じだ。…マンガよりプリンスの方が先か…?

まあ、とにかく気色悪いのだが、女装したオカマならハナシは早い。ところがプリンスは、オカマではない。ギンギンに女性が好きで、助平な感じが伝わってくるのだ。

その割にマッチョな感じではないから、ややこしくなってくる。ステージから降りたプリンスは、極端に内気で、いつでも伏し目がちな自信のない人に見える。そして妙に小さい体だ。かなりなチビだ。そのチビな体がステージに上がると激しく動き回る。痩せて華奢な体で露悪的なセックス・アピールをするのだ。

しかし、プリンスからはセックスシンボル的な、誰もがおおっぴらにセクシーだと認めるような、公なアピールは感じないのだ。こっちにそのつもりはないのに、見てはいけないものを、のぞき見をさせられている感じとでもいおうか。

そしてプリンスのその子供のような身長の体には、胸毛があるのだ。胸毛は、ヒゲと同様に、妙に強調されている。不自然というかバランスが悪いというか。

それに加えて、フリルのあるヒラヒラの衣装。ラメだらけのギンギンの衣装。一体、いつの時代に何処の地域で流行しているのか、皆目見当がつかないようなキラキラで品のないファッションだ。アメリカの黒人によくあるファンションだと言われれば、そうなのかも知れないが、私はよくわからない。

私の記憶の中にある黒人のファンションは、とことんマッチョなので、同じ傾向のものをプリンスが身につけていると、かなり違和感を感じるのだ。だから、かっこいいのかというと、多分、かっこ悪いし、奇異な感じが際立つのだ。

プリンスは、顔も着ている服も体つきも全部がアンバランスで、普通なら控え目にする所を、わざわざ強調して、堂々とこれ見よがしに見せつけてくるところに、相当、横柄な自信が感じられて、見ている方はもしかしたらかっこいいのではないか、と勘違いさせられてしまうのだ。

プリンスはだから、一回見たら、悪夢のように頭の中にこびりついて離れない強烈なルックスの持ち主なのだった。タチの悪い冗談が生きて動いているみたいなのだ。その意味では本当に唯一無比だった。

ということで、それまでフレディ・マーキュリーがワントップだった変態枠は、プリンスにとって代わられたのだった。

その後、プリンスも2016年に亡くなってしまったが、プリンスに代わる人は出ていない。私の中の「変態枠」は、いまだにプリンスで止まっている。最近のリル・ナズXなんかは、プリンスに比べたらよほど健康的に見える。


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