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アリオリはべるいい女

「いい女は、男に草履では会いに来させない」とか言いながら、ツッカケを履いた左足を私に向かって差し出した彼の真意は、キミが男を取られるのはツッカケでいいやと思わせるような女だからだ、ということだったのだろう。まったく糠に釘であったが。

にんにく、鷹の爪、オリーブオイルで作るシンプルなソース、アーリオ・オーリオを彼に教わって以来、ペペロンチーノばかり作っていた。これが意外に奥が深く、いつも何かが足りない気がして、なかなか満足のいくレベルにはならない。村上春樹の小説の主人公なら、やれやれ、とため息をつき、これみよがしにビールを呷るところだろう。

ペペロンチーノには、ルッコラやベビーリーフにトマト、そして生ハムをのせたサラダが私の定番メニューで、オリーブオイルベースのイタリアンドレッシングをまわしかける。

先日、青じそドレッシングについて書くのに歴史をざっと調べてみたところ、青じそドレッシングが発売されたのが1989年。その頃のサラダといえばフレンチドレッシングが定番で、村上春樹の80年代の小説でも「僕」が頼まれる買い物のメモには「レタス、トマト、セロリ、フレンチ・ドレッシング」とある。

やたらと村上春樹を絡めたくなってしまうのは、アーリオ・オーリオを伝授してくれたのが、いかにも村上作品をなぞったような恋愛をしていて悪びれない村上主義者だったからだが、前述のドレッシングを確認するために小説を読み返していて、彼が結婚するときにお相手の出身地を何度か強調したのを思い出し、彼にとってはそれこそが「いい女」を象徴する記号だったのだと理解したのであった。やれやれ。

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