生まれて初めてお笑いライブに行った

タイトル通りの話。

友人に誘われて、40年ちょいの人生のなかで、生まれて初めてお笑いライブに行ってきた。平日の15時15分開場、15時30分開演。ちょっと早めに行って席を取った方がいいんじゃないかと、待ち合わせは15時。時間ぴったりに劇場前についた。ちらほらと劇場前にたむろっている人がいる。ただ、よく見れば、それはこれから出場する芸人さん達のようだ。楽屋が狭いのか、劇場の入り口付近で、皆ブツブツとネタの練習をしている。客と思わしき人は私たち以外に見当たらない。

早く来る必要は全くなかったようだ。まあ、確かに友人から事前に見せられた出場芸人一覧には、誰一人として知っている芸人はいなかった。

シノノメ
ねこじゃらし
いなり
うみのいえ
はつざわベンチ
ガール座
FREE MONKEY
綾瀬マルタ
チャイスー
ジャパネーズ
かぎしっぽ
エールタワー
ガッチキール
こじらせハスキー
おちもり
さすらいラビー

知っている芸人がいるだろうか? そもそも、お笑いに詳しくもない私は、本当に誰一人知らなかった。

15時15分に開場し、チケットを購入。500円。劇場代も賄えないんじゃないかと、いらぬ心配をしながら入場すると、舞台と客席の間が1メートルも離れていない小さな空間で驚く。いわゆる小劇場なるものも、私にとっては初体験。1列目は気が引けて、2列目に席を取る。とはいえ、たぶん私の表情は舞台からも丸見え。笑えなかったら申し訳ない。そんな心配をしながら、開演を待っていると、ぼちぼちお客さんも集まりだした。といっても、本当にぼちぼちで、70人程度収容できる劇場に20人ぐらいのお客さんが揃うと、開演を知らせる音楽がなり始めた。これじゃあ、出演者の方が人数が多い。500円×20人=10000円、と考えると、なんだか、切なくなってしまった。

MCでもあるこじらせハスキーさんが出てきて、オープンニングトーク。ライブは前半8組、後半8組と分けて行われるようだ。いよいよ始まる。笑えるのか、私?

さて、結論から言えば、おもしろかった、のだ。笑えるんだろうか?という心配は杞憂に終わり、私は何度も爆笑した。確かにネタの完成度が低いなとか、オチが弱いなと思ったりすることはあった(えらそうだけど)。でも、その代わりにキャラが立ってるなとか、話の間がうまいなとか、皆、それぞれに良さがある。こんなに楽しめて500円なんて申し訳ない。そして同時に、こんなにおもしろいのに、一般的には無名の芸人ばかりであるということに驚愕した。お笑いの世界ってなんて厳しいんだろう。 

前半、後半それぞれに、ネタが終わった後に出場芸人が揃ってフリートークの時間があった。それがなんというか、よかった。皆、なるべくおもしろいことを言おうと前に出てくる。うまいことつっこめて爆笑を取れる場合もあれば、タイミングが合わずに言葉が空中分解する場合も。皆、ギラギラしていて、「ああ、この世界でがんばっていこうと思ってるんだな」と。しかし、なかにはほとんど言葉を発することができずに微笑んでいるだけの子もいる。勝手に「今いる世界が辛いんじゃないかな」と心配したり。

フリートークを観ながら、10年ほど前に、あるビジネス誌の連載インタビューで、ハリセンボンを取材したことを思い出した。新宿ルミネの楽屋で取材したのだが、すごく“うるさかった”のだ。ハリセンボンのふたりではない。彼女たちには真摯に取材を受けていただいたのだが、楽屋が超絶うるさくて。テレビでも見るような芸人がたくさんいたのだけど、とにかく皆、しゃべる、しゃべる。そして、1分に1回ぐらいは大爆笑が起こる。私には、それはマウント合戦に見えた。観客がいようといまいと、このなかで誰が一番おもしろいのか、常に闘っているんだな、と。

以前、アメトークか何かで、フルーツポンチの村上が、同期芸人をディスっていたのを観たことがある。同期より早く売れた村上が、売れ始めた当時を振り返りながら、一緒にテレビに出ていた先輩たちと比べたら、「お前らのツッコミなんか止まって見えてた」と。“止まって見える”という表現がなんとも秀逸で笑ってしまったのだが、お笑い番組でのフリートークは芸人にとって、一言一言が生きるか死ぬかの決戦なんだろう。自分の刀を研ぎ澄まして戦場に向かい、鋭く切りつけることもあれば、刃こぼれを起こしたり、折れてしまったり。ましてや刀を抜く機会すら見つけられないこともあるんだろう。その悔しさや不甲斐なさをおくびにも出さず、というかそれすら笑いに変えて闘っていかないといけない。お笑い番組に物悲しさなんか人は求めないから。

私が十分に楽しめたライブのフリートークも、テレビに出るような有名芸人には止まって見えるのだろうか? いや、もしかして止まるどころか、後退して見えるのかもしれない。だけど、よかったんだ、私には。小さな劇場のスポットライトの下では、笑いと共に、ギラギラした欲求、落胆や焦り、切なさややるせなさが漂っていた。夢を追う、ということの喜びも残酷さも、全部ひっくるめてそこにあった。

今、次に観に行くライブを探している。できれば、芸歴の浅い芸人がでるライブに行ってみたい。今回のライブがたまたま当たりだったのかもしれない。それは次に行ってみないとわからないけれど、もしかしてこうやって人はお笑いの沼にハマって行くのかもしれないなとも思っている。



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