6/13 病院に呼ばれた日のこと

朝飯を食べ終えて、ルンバの放流をしたり、食後の洗い物をしていたら、彼の入院している病院から電話が入った。

病院の電話番号は登録してあるので、着信名で彼の病院からの電話だという事は一目で分かる。

ヤバい…と思った。

連絡が来るってことは彼に何かあったって事だから。

最悪の事態も頭をよぎる。

電話の向こうでは、医師に代わりますとの交換の女性の声。

代わった担当医師が、彼の病状の説明をしたいので、これから病院に来て欲しいという。

彼のお姉さん方もいらっしゃるので同席して欲しいという。

覚悟はしているし、こういう電話がいつ来てもおかしくは無いとも思ってはいたけど、でも実際にこういう電話を受けると、やはり動揺してしまう。

なるようにしかならないと自分に言い聞かせる。

心配してもしょうがないと自分に言い聞かせる。



ところで、ゲイの鬼門とでもいうか…かなりの一大イベントとして、彼氏の親族に会うという事がある。

初めて付き合った人からこれまでの30年間、ずっと誰かと付き合って来たけれど、そんな僕でも彼氏の親族と直接会うのはこれが初めて。

この状況で今更、会いたく無いとか、どうしようなどとは思わないけれど、でも、少しの不安はある。

つい最近、その存在を知られたばっかりのニューフェイスだしね…。

出来ればギリギリまで会いたく無いような気持ちもあったけど、こういう時は大抵真逆の結果になるんだよね。

っていうか、絶対。

病院の玄関にある面会の申し込み所で、僕の前に手続きしていたのがお姉さんのお二人だった。

ほらね…。

腹を括って「初めまして〇〇と申します」とご挨拶。


第一印象から、とても良い方々だった。

良かった。

身内贔屓みたいになるけど、僕の彼自身が、こんなに良い人がいるのか?と思うほどに良い人なので、彼の親族もやはり良い人なんだな。

納得。

僕の弟はクソ野郎なんだけど、それは僕もクソ野郎だからなんだよな。

納得。


主治医からの説明を受けるまでには結構な時間があったので、それまでの時間でお姉さんのお二人とはかなりお話しをさせて頂けた。

ほんの数週間前に突然出てきた弟の恋人(しかも男)には、驚きも戸惑いもあったとは思うけれども、そんな感じは少しも見せずに、ごく自然に、優しく接して頂けた事には本当に助けられたと思う。

本当に良かった。

ありがたかった。


そうこうして通された病室で、彼は寝ていた。

酸素吸入用のチューブを付けてぐったりとはしていたけれど、とにかく今日が最悪の状況ではない事にまずはホッとする。

病床の横での先生からの説明によると

・急性リンパ性白血病は、先週の骨髄検査によるとかなり改善してきている。

・先週から発熱が続いている。

・CTの結果、肺炎像が確認されている。

・細菌感染が起きている可能性がある。

・腎機能が凄く低下している。

・今後、これ以上の悪化があった場合にはICUでの治療となる。

・最悪の事態も覚悟しておいて欲しい。

との事だった。

白血病が改善しているというのは喜ばしい事なんだけど、とにかく今が危ないという事であった。

でも、今のこの状況をなんとな乗り越えて、白血病も寛解を目指したいとの事だった。

先生の話を聞き終えて、現状、やはりとても良く無い。

希望は有るけど、今は危機の真っ只中という感じだった。

この三、四日で肺炎と発熱(感染症によるものと思われる)が収まらない場合には、また違ったアプローチを考えるとは言っていたけど…その先には、最悪の結果も覚悟して欲しいのと言葉がチラついている。

実際、先生の話の途中にも、時々、酷く具合が悪そうな呼吸やうめき声があって、我慢強い彼なのに、相当に苦しいんだろうなと思った。

本当は沢山話しかけて励ましたいけれど、今の彼にはそれは負担になるだろうし、とても出来ない。

病室を出る時に、「もう少しだからね(もう少しで良くなるところまで、来ているからね)、頑張って」と、たった一言だけ声をかけた。

凄く苦しそうだけど、「うん」と言ってくれた。



それを信じるしか無い。



本当に苦しい抗がん剤治療をここまで頑張ってきて、しかも、白血病は良くなって来ているのだから、なんとか今を乗り越えて欲しい。

とても苦しいだろうけれど…。


あと少しだからね。

もう少し頑張ってね。



明日また、面会に来るからね。

結局、いつもの通りの事しか出来ないけど、出来る事をする。

これまで何度も言ってるけど、本当に本当にこれに尽きる。



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