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武道の型稽古って、なんのためにある?

武術の稽古では、おなじみの「型」。重要だと言われる一方で「何の意味があるの?」と言われることもしばしば。
「相手が型の通り動くわけじゃないだろう」というのが、その理由です。

私は、型は動きの質を向上させるための「条件制御」だと考えています。

・比較を可能にする「条件制御」

条件制御は、科学の実験で使われる用語です。

例えば「ネズミの餌を減らすと長生きするのか」というテーマで実験する場合には、片方のネズミのエサを多く、もう一方のネズミのエサを少なくして寿命を調べますね。

この実験でネズミの数が違ったり年齢や性別が違ったら、寿命が違っても、何が要因かわからず結論を出せないはずです。

そこで、テーマ以外の条件を揃えます。これが条件制御。
2つのケースを用意し、ネズミの数も、年齢も、性別も、周囲の温度や湿度まで同じになるようにそろえます。違うのは、実験テーマである餌の量だけ。
これで寿命に差が出れば、餌の量が寿命に関係していると言えますよね。

・型は同じ動作だから成長できる

型は、その条件制御の役目をします。
剣でも空手でも、僅かな力の濃淡や、動かすタイミングなどで、速度も威力も変わってきます。どう動けばより良くなるか、身体で覚えることが必要です。

そんな時に有効なのが、型による条件制御。
手順はわかっています。行うべき動作もわかっています。勝ち負けもないので、自分の動きに集中できます。毎回同じ動きの中で、足なら足、手なら手の使い方を変えて結果を見る。全く同じ動きを繰り返すからこそ、工夫を上達につなげることができるのです。
集中が保証された環境で、必要性の高い動作を洗練し、効率よく動けるようにするのが形稽古の目的です。

試合形式の稽古では、同じ状況が繰り返されることはありませんね。原因と結果の関係が薄くなってしまうので、動きの質を考えるのには向いていません。
試合形式の稽古は、試合運びや相手との駆け引きを学ぶためのもの。

駆け引きを学ぶ試合。
動きを研究し、工夫する型。
この両方ともが、上達には必要なのです。

・型の使い方

形の手順を覚えたあとは、その動きを無駄なく、少ない手順で再現できるように試行錯誤して動きの向上をはかります。

個人的な経験から言うと、同じ型をしばらく稽古していると、やがて発見が少なくなる時期がきます。その時は、別の型をしばらく稽古する。そのあとで元の型にもどってくると、感覚が磨かれるのか、新しい発見ができるようになっています。

理論的には、型の稽古には終わりがなく、いつまでも続くものです。

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