正中線とはなにか。どう使うか③ ~ 負荷を位置的に分散させる

前回は、加速度と重さは交換できるという話でしたが、今回は重さと距離が交換できるという話。

・重さと距離の関係の基本はシーソー

釣り合いが取れた状態は、中心を挟んで前後左右の力が釣り合っています。左右の釣り合いで、重さと距離といえば、シーソーですね!

小学校で習ったやつ

回転させる力をモーメントあるいはトルクと言いますが、その関係は
「モーメント=力✕距離」
弱い力でも、中心から距離が遠ければ、影響力が大きくなるのです。

力と距離は反比例関係。重さ(力)が3倍になっても、距離が3分の1倍になればモーメント(回す力)は同じになりますね。逆に、重さが3分の1倍なら、距離を3倍にすればつりあいます。

たとえば、下の写真。
左手を横へ出すと、実際の腕の重さよりも影響が大きくなるので、そのままだと左に傾いてしまいます。そこで中心軸を少しずらすとバランスが取れます。

左側は正中線が体幹の中心とほぼ同じ。右はずらすことでバランスが取れている

 
身体が腕よりも圧倒的に重いため、わずかな移動で釣り合いが取れているのです。身体の形が変化しても、「重さ✕距離」が一定に保たれるように釣り合わせている限り、バランスが取れます。

とはいえ、実際には、そんなに簡単に重心を移動できませんね。重力の効果には限りがあります。
この距離による効果は、前回書いたような加速度の反作用として使う時に有効なのです。
遠いところでの小さな加速度は、近くの大きな重さに対抗できます。重いものを近くで動かして、遠いところで大きな加速度を生み出すことができます。空手で、突きの最後に腰を切り戻すのが、一つの例です。

・身体の中心と重心は違う

上の写真を見て、
「正中線が身体の中心を通ってない」と思う方もいらっしゃるかも。
正中線は、体幹の中心と近いところに収まっていることは多いのですが、いつも一致しているわけではありません。
正中線が通るのは、あくまで重心。状況次第で、重心の位置はいくらでも変わります。正中線の場所は必ずしも一定しているわけではないのです。

なので「正中線を大事に」と、いつも背筋を伸ばしていたりすると、かえって重心の位置を見失うことになるかもしれません。

・あと、角運動量の保存則も

その他、角運動量保存則も、距離に関わる物理法則ですね。
物体の回転のエネルギーを表している角運動量も、距離と力を掛けたものなので、距離が短くなると回転力が上がります。
フィギュアスケート選手の回転が、腕を閉じると速く腕を広げると遅くなるのが、その例です。

武術では、振った剣を止めるときなどに関わってきます。



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