10.文化祭の自由
「君はどうやって小説を書いている?」
「ノリ」
もう会話が終わってしまった。
文芸部のかきいれ時である、文化祭前、締め切りに追われている僕たちは粛々と原稿用紙に文字を書き入れていた。
僕と隣の彼女だけは、アナログ派なものだから、鉛筆と原稿用紙が今の僕たちにとって、あなたより大切なものである。
「そろそろ休憩しないか?人間は45分が集中力の限界って先生が」
「私の45分はまだ来てないから」
独りでほっつき歩けと言われているのだろう。
まぁアイデアは、散歩中、トイレ、寝床で出るものだっけ?
ならば潔く僕は散歩を決め込むことにした。
…
アイデアなんてもんは、ただ無作為に歩いて出るものではない。
例えば、文化祭で賑わう校内を見渡すだけで、いくつものネタが転がっている。
どうしてこの看板の配色を赤色にしてしまったのだろうか?
このポスターの逆卍は、さすがにマズイのではないか?
贅沢は敵だ!のスローガンの出店の売り物が、どうしてタピオカミルクティーなのか?
色々と細かな種は撒かれている。
今更だけど僕の学校の連中面白いな。
これはひょっとしてギャグでやっているならまだしも、贅沢は敵だの看板前で、自撮りを決め込む同級生には頭が下がる。
いったいこの標語を、いつの時代のかの国の言葉だと思っているのだろうか…
しかし、決め手には欠いていた。
せいぜい台詞数行分の掛け合いにしかならない。
それでもいい。
進むなら。
文芸部の部室に戻ると、隣の彼女は末恐ろしい原稿を積み重ねていた。
ああ、ノリで書けるって羨ましいなぁ。
「ずいぶん書いたね」
「ノリで書くのも考えものよ」
彼女はそう言いのこして、散歩に出かけた。
今が彼女の45分なのだ。
小説の書き方にも個性が出るように、文字にも個性は如実に出る。
筆跡診断なんてものがあるくらいだからな。
彼女の字は綺麗だった。
繊細で、儚げで、それでも迸る力を感じさせる、良い字だった。
かくいう僕は未だに鉛筆の正しい持ち方とやらになじめないで、ここまで来てしまったからな。
観念して、さっき見たものをなんとなく落とし込んで、書いてみよう。
彼女が帰ってきた。
「見た?あの戦中標語ブース」
「あそこで自撮りしてるクラスメートには笑ったよ」
「憲兵に引っ立てられるわね」
「平和でいいじゃないか」
「表現に自由も不自由もないわよね」
「その通りだ」
「読みたいものを書けばいいからね」
彼女の筆は、またノリはじめた。
お題:2つの小説の書き方 必須要素:小説 制限時間:15分 文字数:1060字
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