夜泣きする夜をあやすそんな夜

風が強い。
まだ涙は出ていないけど、
泣く前だからこそ、一番機嫌が悪い時だ。

怒ったような、泣き顔のような顔で下を見て、
道行く人の持ち物を吹き飛ばしたりして、
うさ晴らしのちょっかいをかけている。

「泣いてるね。」
「騒がしくてかなわないね。」
そう言った時、いっそう強い風が吹いて、
帽子を飛ばされそうになった。

「赤子が泣くのと同じだよ。しょうがないよ。」
「そういうもんかな。」
「そうでしょう。夜って、泣きたくなるもんね。」
それが聞こえたのか、少し風がおさまった。

とはいえ、夜通し泣かれちゃたまらない。
ここはひとつ、寝かしつけてやろう。

その晩、自分は寝られないのを覚悟して、
ぐずる夜の相手をしてやった。

途中、ついに爆発した。
つまり、大雨になった。
癇癪かんしゃくも止まらなくて、台風みたいな嵐になった。

でも、まあ、翌朝には落ち着いた。
雲ひとつ無い空模様からして、
流す涙も無くなったんだろう。

…と、思ったけど、また泣いた。
雲が無いのに、なんで泣く?

昼の空は、普段は人前では泣かない。
泣く時は、雲に隠れてこっそり泣くのだ。
ところが、今日に限って、晴れたまま泣いている。

「こういう日もあるよ。しょうがないよ。」
「そういうもんかな。」
「そうでしょう。昼間だって、泣く時は泣くもんね。」
それが聞こえたのか、少し雨足が弱まった。

とはいえ、こんな泣き方は普通じゃない。
ここはひとつ、腹を割って話してみよう。

その日、昼寝するつもりだった時間を諦めて、
透明な傘ごしに、空を見上げて過ごした。

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