落下マニア

「落石注意」の看板の通り、
目の前に石が落ちてきた。
ほんの小さな石だったけど、
こんなでも、頭に当たったら危ないところだ。

「気を付けて落ちなよ。」
「大丈夫だって。」
地面で跳ねて、転がりながら、
落ちてきた石は笑って言う。

「人にぶつかるくらい、なんてことないって。」
「石はそうだろうけど、人はケガするだろ。」
言って聞くのかは知らないけど、
ダメで元々。一応、言うだけ言ってみる。

「落ちるって、楽しいよな。」
「人がやったら死んじゃうだろう。」
「人だって、ヒモとか付けて飛んだりするだろ。」
…たしかに。バンジージャンプとかいう変な娯楽があるな。

「次はどこに落ちようか。」
「人の上じゃないところにしなよ。」
「そんなこと言ったって、人なんてどこにでもいるよ。」

いつの間にか、場所探しに付き合っていた。
危なくない場所。思いっきり、楽しく落ちられる場所。

「落ちる距離ってのは、長ければ長いほどいい。」
「どのくらいまで行ける?」
「わかんない。落ちるのに失敗したことないから。」

それなら、と閃いて、
「あれに向かって落ちるのはどうだ。」と、
太陽に向かって指を差す。
「なるほど!いいね!」と石が言う。

そういうわけだから、地球に相談だ。
「いつも重力かけてもらってるとこ悪いんだけど。」
初めて言ったセリフだ。と、言いながら思った。
「この石だけ離してやってくれないか。太陽に行きたいんだと。」

「大丈夫か?」と地球が言う。
「さすがに、太陽なら痛くもないって。」
「太陽はそうだろうけど、石は燃えちゃうだろ。」

と、まあ、少し揉めたけど、
結局、石は太陽を目指すことになった。

手の中で、不意に石が軽くなる。
手を離してみると、その場で浮かぶ。
不思議なもんだ。
宇宙の重力って、こんな感じなんだろうか。

「悪いけど、投げてくれるか。」と石が言う。
「いいけど、狙えるか分かんないぞ。」
なにしろ、狙いは太陽だ。
真っすぐ見るわけにいかないから、難しい。

「適当でいいよ。」と石が言う。
「外れたらどうする。」
「太陽にだって重力はあるだろ。それに捕まえてもらうさ。」

空に向かって石を投げた。
一瞬、人に当たったらどうしよう。と心配したけど、
こっちにはもう落ちてこないんだったな。

見送ろうと思って空を見たけど、
上に落ちる石は見つからなかった。
たぶん、ちょうど太陽で見えなかったんだろう。
ってことは、上手いこと投げられたってことだ。

以来、その石にはもう会っていない。
まあ、当たり前だ。
楽しかったのかどうか、一言くらい聞きたかったけどな。

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