自分と向き合いたくないって話。
2年ぶりにリクルートスーツに袖を通した。
没個性的な服装に黒に染め直した髪。もともと個性なんてない私はさほど抵抗感がない。
むしろ決まっているのがありがたいと思う。問題はエントリーシートだ。
青春をラジオと映画に捧げた私には、いわゆるガクチカなんていうものはもちろんない。ありものを膨らます能力には定評があるが、微塵もないものはどうしようもない。
何もない自分と向き合う時間は苦痛だ。もっと頑張ればよかったと思っても、結局後の祭りだ。
志望理由なんてあるわけない。福利厚生の整ってて、給料が平均より良くて、ネームバリューがそこそこある会社を乱れ打ちしてるだけ。
AIに書かせた個性のないESを少しだけ改変して、履歴書をひたすら送信する。最近は手書きでもないから、notionからひたすらコピペするだけの作業と化してしまっている。
「あなたの強みはなんですか?」
「あなたを一言で表すとしたら何ですか?」
「あなたが経験した最大の困難はなんですか?」
ねーよ。不自由がなくて、極力頑張らなくていい道ばかり選んで生きてきた。ずーっと、自分と向き合うことを避けて生きてきたんだ。
そこそこ学歴がいいから、そこそこ顔がいいから、そこそこいい経歴を持ってたから、父親がそこそこいい企業に勤めてたから。全部そんなとこ。自分で手に入れようと思って手に入れたものなんてほぼないに等しい。
嫌になるんだ。自分の人と違うところを探すの。だって、人と同じになるように生きてきたから。浮かないように、沈まないように、打たれないように。
いい大学に入ることを目的とした人生だったから、叶ったらそれ以上に頑張る気になれなかった。ボランティアとかいっとけばよかった。どれもこれも大学に指定校で入るために頑張ってた中学とか高校のことしか語れない。
今から何かしなきゃいけないんだろうか。見えない誰かに勝つために。知らない誰かに見栄を張るために。結婚したら、子供産んだら、どーせ辞めるのに。
私はまた、金持ってて干渉してこない伴侶を見つけるために、就活を頑張るんだろうか。
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