大切な事は全てトヨタの改善から教わった

今の僕がこれだけ掃除=お清めを推進しているのはトヨタ自動車の部品適合規格がより厳格になったからだった。
下請けのメッキ屋で働く僕らも沢山の事を学んだ。
座席シートの前後を調整するレバーのカチオン塗装もやっていて手にザラ付きが少しでもあるとNGで修正をして触り心地の良い品質を要求された。
その商品を始めてラインに流した頃は不良の嵐で仕入れ先からもクレームが来るほどだった。
社長と社長の息子の主任(以下主任)と僕とブラジル人の上司とで何が悪いかを話しあった。

その時僕は小林正観さんの著書<そ・わ・・かの法則>を読みトイレ掃除を素手で行い何かがスーッと吹っ切れるようなオーラに包まれそれからどんどん自分にとって良い現象が起こり始めていました。
やり始めの頃は好転反応として嫌な事が続いて途中で挫折しそうになりましたが本には
「好転反応は悪い膿が出ていくイメージで対応してください。悪いものが出切って空っぽになって初めて良い事が沢山起こり始めるのです。」
こう書いてあったと記憶をしています。
そして玄関も狭いアパートでしたがドアを拭いて、たたきを拭いてトイレ掃除の他に幸運が入ってくる場所として風水の本で読んだことがあったので、仕事が終わり夕食をいただきお風呂に入って身を清めてからトイレ掃除と玄関掃除をしていました。
妻がその時はいたのですが最初は何やってるの?
と興味を持ったのか聞かれて本の内容を話すと関心を示してくれて掃除に協力してくれました。
始めた当初は本当にケガをしたり交通違反で捕まったり免停になったりと…色々自分にとって嫌な事が続きました。

1ヶ月程すると当時は老人介護施設で働いていたのですが物凄くお給料が少なく製造業時代にローンで色々な電化製品を買い替えていたので老健でのお給料では生活していくことが出来ませんでした。
そして貯金もお給料が余ったらしましょう的な生活をしていた為、当然貯まるはずもありません。
たまたま新聞の折り込みチラシに近所のメッキ屋さんの社員募集がありました。
経験者優遇とか高卒以上と書いてありましたが、とにかく早く製造業に戻らくてはと思いすぐに履歴書を書き電話をして面接をしてもらえました。
まず社長に
「経験はないですがどんな事も勉強、自学精神で取り組み御社の業務発展に貢献させていただければ光栄です。」
とありったけの自分の思いをぶつけました。
社長は
「ウチは日本人がほとんどいなくてね。日本人の管理者候補をウチの息子と競い合ってやって欲しい。だから体力さえあれば気力もついてくるから体力は大丈夫か?」
こう聞かれて
「むしろ体力だけしか自信がありません!!」
本気で本当の事を言ったのですが社長は大笑いをして
「面白いね!!僕はそういう熱い子好きなんだ。息子は君より2つ年下で威張るし、口が悪い。おかげさまで日本人が続かなくて辞めていってる。本当に出来るか?」
ファイナルアンサーを求めてきました。
「今の僕の状況は出来る出来ないを言ってる状況にありません。やらせてください。」
社長は即決してくれました。
「いつから来れる?」
僕はこれから退職の意向を伝えるので1ヶ月いただきたいと正直に状況を話すとご理解いただき老健を辞めた次の日から来てくれと言われました。

メッキ屋勤務初日から1ヶ月間はライン作業を行いどういう状態が正常でどういう状態がNG品なのかを見極める訓練をしました。
ブラジル人作業者の中に僕が一人日本人。
初日はとにかく数をこなしていく事を求められました。
帰宅後すぐに本屋さんに行ってポルトガル語の勉強も始めました。

一緒に作業するのはベテランのブラジル人作業者4人一組の中に僕が入る感じでした。
女性の方で外観検査や接触検査を60秒間隔で20個程のピッキングの枠に釣り下げられている商品を決まった形で検査をしながら箱に規定数入れていくという作業なのですが、単純に見えて滅茶苦茶難しくスピードについていくのに10日も要しました。

10日も経つとポルトガル語も少しは覚え朝の挨拶と帰りの挨拶はポルトガル語で行っていました。
そして作業中僕に対してあまり良い表現ではない言葉を同じラインの他の3人と話しているのが分かりました。

主任が5日目に話しかけてきてくれて
「ムカつく事言われてるの分かる?」
と聞いて来たので
「分かります。作業が追い付いていないので何で自分達のラインだけこんなに苦労しなくちゃいけないんだ!!」
とメッキをする前の商品をぶら下げる男性陣が言っているのも分かります。
と答えると、
「ムカつくでしょ?」
と言われたので
「しょうがないです(;'∀')自分が追い付いていないので自分に対して悔しい気持ちを持っていますがラインの先輩達にムカつくとは一刻も思ったことがありません」
主任は
「はかせ君は大丈夫そうだね。ここでムカつくって言ってたら即クビで帰ってもらってたよ。ブラジル人ていうだけで国籍差別や人種差別で彼らを下に見てしまったら一緒に仕事できないから。良かった!!」
肩をポンポンと叩いて主任は自分の仕事に戻っていきました。
実際にブラジル人上司は3人いてラインの保全や品質管理をしていました。
それだけでも驚きましたが作業標準書というトヨタ系のいわゆるマニュアルを主任がポルトガル語で見やすくカラフルに作っていました。

もうこの会社はブラジルだと思うしかないと割り切って1か月の使用期間を終えました。

1か月の間に気付いた事をメモ帳にまとめていました。
とにかく床が汚い。
油と埃でマスクをしても昼休憩には鼻の周りが黒くなるくらいの空気汚染がありました。
メッキラインの最終工程は苛性ソーダを使い強アルカリの液体にフルディップ式と言って商品がかかった枠をラインの機械で上げ下げして行う方法でした。
強アルカリ性の空気も喉に悪いのか2週間くらいは喉の痛みと闘っていました。
そして錆が出やすくなり鉄の柱などは塗装もめくれ上がり工場のシャッターがリフトが入ってくると開くようになっていたのでその風で飛散している状態でした。

そしてブラジル人作業者は掃除に関しては一切興味を持つことがなく最初の2週間目で気付いた事を言ってくれと社長に呼び出されて伝えました。
「床の油と埃を毎日仕事帰りか仕事始めで拭き取るようにしないと滑って危ない事と軽い商品を不意に落としてしまい油をふき取るのに時間が取られのが無駄な時間になってると感じます。」
と伝えたら一度だけコクンとうなずいて1時間後に1ラインの作業者分のほうきとモップとバケツを用意してくれました。
「やっぱり気付いたか!!いつかはやらんといかんと思ってたけどブラジル人は掃除は契約に入ってないって言って掃除を嫌う。契約書に何度も入れようとしたがブラジル人達のボスが掃除を入れたら全員撤退するっていうから、俺と息子で金曜の夜だけ一応そうじしとるだけどなぁ。」

そういう事か外国は全てが契約社会で初めから入れておけばよかった掃除の契約を後から入れるとその分の給料を上げろと言ってくるのだそうだ。
よく考えるとブラジル人作業者は何も悪い事は言っていない。
労働者として当たり前の権利を主張しているだけなのだ。

社長がもう一つ
「月曜日の朝礼を復活させたいと思うけど、どう思う?」
その朝礼さえどのような物なのかも分からなかったのですが、
「全従業員で集まって社長からの言葉と前の週の不良の数と品番を発表しとっただけど、それも無駄って言われて止めとるだよ。」
社長は悔しそうに言っていた。
「社長のスピーチの他に各ラインのリーダーに今週の目標を言ってもらうとかどうですか?それか1分間スピーチをしてもらって人前で話す習慣をつけたら不良が出てもシラナイデス。で終わらず原因を探れる機会になるのでは?」
と社長に僕の意見を伝えました。

その日作業が終わると社長が全従業員を集めて僕に来週の月曜日から朝礼を行う事になったと伝える様に言われました。
ポルトガル語の通訳は上司がしてくれるから社長に伝えたことをそのまま話してくれと言われました。

いざ皆の前に立つと睨みつけるような眼差しで僕を見ているほとんどのブラジル人に向かい言葉を紡ぎ始めました。

「来週から以前行っていた月曜の朝礼を復活させます。そして毎週順番で1分間くらいのスピーチをしてもらいます。内容は仕事の事やプライベートの事でも構いません。皆に自分の事を知ってもらういい機会です。」
ここまで話ブラジル人上司が訳してくれました。
悲鳴に近い声があちこちで上がりました。

「僕がこの会社に入って気付いた事をスピーチします。まずは床が汚いのでラインがトラブルで止まっている時は直るまで床をほうきで掃いていきましょう。会社を自分の生活する家だと思ってください。自分達の扱っている商品を自分や自分の家族、友人が使うと思って仕事をして欲しいです。日本の文化は家族がまず第一の社会として考えます。僕達の扱っている製品を使ってくれるお客さんも家族だと思ってください。今の自分達の作業している部品を自分で使いたいと思っている人は手を挙げてください。」
誰も上げません。

すると主任が
「日本で仕事をするという事は日本人がお客様でありメッキやカチオン塗装した製品を使い車を組み立てて買っていただけるのは、ほとんどが日本人です。でも既に沢山のブラジル人も新車を買う時代になりました。
同じブラジル人にいい加減な商品を売ることが出来ますか?
そして自分が買うことが出来ますか?
汚い場所から綺麗な物を作ろうとしても出来ないです。綺麗な場所から綺麗な製品が作られるのです。この工場は自分達の家です。社長の持ち物ではありません。あなた達が働いてくれているから社長は社長でいられるのです。自分達の家にゴミが落ちてても平気ですか?埃がたまっていてもそのままですか?もう一度日本人の○○君が辞めて不満もあるかもしれないけど今やり直さないとこの工場は潰れます。そしてあなた達の仕事もなくなります。住む所もなくなります。それでもこのままの状態を続けますか?給料も掃除ををして朝礼にも賛同してくれるなら時給を50円上げます。その分の残業代も15分単位で付けます。」

住む所が無くなるというのは会社がブラジル人専用の夫婦寮を作っていたからです。

ブラジル人は歓声を上げ始めました。
主任も最後の手段というよりも頑固に持っていた従業員はこうじゃなくちゃダメだという考えを手放して働いた分の給与はしっかり払うべし。
と人件費を削るのを辞めた瞬間でした。

それから毎週月曜日に朝礼が行われ、一人ずつ1分間スピーチをしていきました。
そして派閥が出来ていたブラジル人同士の派閥も徐々に無くなっていきました。
掃除もラインが止まっている間は、ほうきで周りを協力して掃きとり自分達のラインがいかに清潔かを競うような状態になっていました。
完全に僕と社長と主任の作戦は成功しました。

今度は清潔になった事によりNG品の数も少なくなり残業が減りました。
そして今度はラインの仕組みをしってもらうために苛性ソーダの入ったメインの水槽以外の掃除を毎週金曜日にしてもらう事になりました。
これにより掃除の時間分の残業代が増えて更にこの水槽にはこの薬品を使って汚れを落としているんだよ。
とかこの薬品を入れてこの水槽は仕上げ加工をしてるんだよ。
と仕事に興味を持ってもらう事で離職率も下がりました。

いつも清潔な職場でいつものメンバーといつも良品を作り出す。

をブラジル人の上司が口にしたことで、月曜日の朝礼の最後はその言葉で締めくくりました。

その時知りました主任は東京の大学で経営学を学びそしてメッキの仕組みも学び、カナダやオーストラリアに留学をしてラグビーやオージーフットボールをされていたと聞いて、この間終わった日本でのラグビーW杯の事をこの記事を書いていて思い出しました。
ワンチームに自分の会社がなることを主任は望んでいたんだと…

ここまでが掃除=お清めに目覚めたエピローグとなります。
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ご完読ありがとうございました。

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