見出し画像

noteで短歌〜晩秋から春をうたう〜

2023年の晩秋から2024年の春にかけて詠んだ短歌のなかから、自選歌をまとめました。

〈冬の気配〉
冷え込んだ朝に新聞カタンコトンもうすぐ冬だと知らせる音だ

影までもほわほわ淡く薄らいで振り向くことの多い秋の日

ポットから朝に沸かしたお湯注ぐ午後の温さは陽だまりに似て


〈冬支度〉
手触りのやわらかな服選んでるお日様低く差し込む部屋で

日向ぼこ犬のおでこは黄金色やさしくやさしくやさしくなあれ

やっぱりね粒あんでしょう鯛焼きは買い物かごにうふふと鎮座


〈ストーブ〉

ちりちりと燃えるストーブ青い火のずうっとずっと向こうに星が

縄文の人もぎゅうぎゅうくっついて囲んだろうか暖かな火を

ストーブの前にごろんと寝転んで伸びをしている犬の肉球


〈帽子〉
深々と帽子かぶるとほんわりと頭を撫でてもらったみたい

帽子からはみ出た耳の冷たさに冷えたマシュマロ唱えて走る

赤ちゃんの私がかぶる毛糸帽かぶせてくれた手があったこと


〈石〉
小さくて丸い石ころ手に包む与えきれない愛の行き先

しんしんと冷たい石がいつの間に私の熱であたたまってゆく

横顔は誰もがどこか幼くて星だったはずの石を探すよ


〈つめたい朝に〉

炊飯器スイッチ押して犬とゆく霜の降り立つつめたい朝に

どれほどの時を生きるか選べずに行き交うひとと交わす微笑み

ゆっくりと光は増して見晴るかす枯野は朝に輝いてゆく


〈大晦日〉

洗顔のお湯の出るまで指伝う水ひんやりと大晦日くる

カレンダー掛け替えてゆく音さらら一年ぶりに触れる壁面

はたらいた両手にクリーム塗り込んでついでに犬の頭も撫でて

特別なことなどなくて上等さ瞬きのたび揺れる影見てる


〈正月二日〉
ヘリの飛ぶ低い唸りに見あげればかなしいくらいきれいな空だ

鈴緒いま温もりもって手のなかに多くの人の小さな願い


〈夢に〉

夢に見る家の廊下をひたひたと歩む足裏しんと冷えゆく

なつかしい人ども炬燵に温まってあたっていきなと布団をあげる

方言のゆるく耳たぶくすぐってたふたふたふと深まる眠り


〈小さな春〉

昨日より暖かな風襟足をふふふと撫でる小さな春よ

犬の足草むらに咲く花を踏むホトケノザって名のある花を

すれ違うだけの縁あるものたちに小さな春が舞い降りてくる


〈君がいないと〉

白梅の花弁二月の風に揺れ君がいないとそれも言えない

してあげたなんて思っていたころはまだ誰のことも好きじゃなかった

給食にあったハートのチョコレート誰もがみんな愛されていい


〈るらんるらん〉

雨混じりるらんるらんと道をゆく雫に映る春の歌声

電線にとまる烏の鳴き声はのどかに響くもうすぐ日暮れ

濡れた土何かけものの足跡が伸びて消えたらその先に虹


〈明日へ〉

川の向こう微笑んでいるあの人は春の花なんだろう光よ

真っ白な肩甲骨がささやかに風にふるえて明日へ生きる

まだ今はあなたに会えていないのにもしもあなたが泣いたらかなしい


〈春だし〉

むずむずの鼻をなだめて曇り空見あげてみればほころぶ花弁

そろそろかそろそろですかもこもこの柴犬くんの換毛期そろ

慣れた靴足の幅より少しゆるいゆるすとかゆるされるとか空は春だし


〈道草〉
道草をして帰ろうかはこべのべ頬杖ついた五時限目の子

眠ったら春の野原で目が覚めて小さな頃のわたしに会いたい

柴犬の耳にかすかに降る雪のひと粒ついて光差し来る


〈雨の夜には〉

鉢植えの花芽ふくふく膨らむをいいないいなと眺め入る夜

ふいに来てふいに去るもの愛しくてかなしいけれどずっと愛しい

雨の日に扉をたたく風がありこの胸の奥すべり込むもの


〈ふたり〉
まず君の好きなところを告げたくて僕のことばで足りるでしょうか

どうしてもつむじ曲がりの僕でした吹いた綿毛がきらきらひかる

ににんがしふたり並んで九九唱えほらほら影の僕ら踊るよ


〈巡り来る春〉
巡り来る花の季節に微笑んで私のなかの愛しいものと

あたたかな犬の頭を撫でる手に遠い未来の私が混じる

時はそう前に進んでゆくばかり伝えたい春書き足してゆく



この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?