ハラスメントと承認欲求の深い関係

 職場の労働相談に携わる人の話では、パワハラなどハラスメントに関する相談がとても多く、しかも近年急増しているそうだ。ハラスメントに対する世間の認識が広がったため、表面化したという理由もあるだろう。いずれにしてもハラスメントは労働現場の問題にとどまらず、もはや重要な社会問題になっている。ちなみに欧米の企業などで聞いてみると、わが国ほど深刻ではないという声が返ってくる。

 ハラスメントがわが国で深刻化しているのは、特有の職場風土や人間関係によるところが大きい。

 まず、一人ひとりの仕事の分担や責任範囲が明確でないことがあげられる。裏を返せば上司の裁量権が大きいわけである。そのため部下に対して理不尽な要求をする上司が現れやすい。また日本の職場の上下関係は単なる役割上の関係にとどまらず、人格的な上下関係をともなう。つまり上司は「偉い」と考えられている。だからこそ、ついつい無理難題も吹っ掛けてしまう。

 そしてもう一つは、「承認欲求の呪縛」が絡んでいることだ。終身雇用の慣行が残り、メンバーの入れ替わりが少ない日本の職場は、共同体としての性格が強い。その共同体のなかには社会的に通用しないような慣行や規範、独特の空気が存在する。いっぽう個々のメンバーは、共同体の一員として受け入れられなければ働き続けることが難しいので、そうした慣行や規範、空気にしたがわざるを得ない。さらに、それを基準にした共同体のなかにおける暗黙の評価が、地位や処遇、仲間からの尊敬、発言力などを決める。

 だからこそ部下は、上司からハラスメントを受けても、その場で抗議したり訴えたりできない。上司の側も部下の弱みを見透かしているので自制しない。抗議されないので、そもそも自分がハラスメントを行っていると自覚していない場合もある。

 厚生労働省が2016年に行った調査では、「過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがある」と回答した従業員は32.5%にのぼる。しかし別の調査によると、ハラスメントを受けたときの対応で最も多いのが「何もしなかった」(50.8%)であり、その理由は「相談しても解決しないと思ったから」 (35.0%)、「相手との関係が悪くなりそうだから」(27.1%)が1、2位となっている(川越市 2018年調査)。

 この調査結果は、先に述べた問題の所在を裏づけているといえよう。

 要するに、ハラスメントをなくすには法制化や啓発だけでは限界があり、「承認欲求の呪縛」をもたらす日本の組織風土、そしてその背後にある組織の構造にまでメスを入れなければ根絶が難しいということである。

「個人」の視点から組織、社会などについて感じたことを記しています。