見出し画像

空想アラフォー女子 1

 ため息をついてしまった。スマホのディスプレイをいじくる手を止める。コーヒーを口に含む。ぬるい。私はどれだけの間画面をみていたんだろう。せっかくドリップしたコーヒーも台無しだ。この前お気に入りのカフェで買ったコーヒー豆。煎りたての香りも気分をあげてくれるけど、飲んだ後に広がる香りが好きなのに。

 婚活アプリをはじめて、1ヶ月。既に3人の人とは会っている。ただ、正直微妙だった。

 一人目は、ガチ男。三十五歳の国家公務員。年収700万円。趣味はカフェ巡りとキャンプに登山。私と同い年で趣味も同じ。マッチングも80%と悪くは無い。ただ、アプリの画面の顔と本人の顔があまりにも違った。顔は悪いわけではないけれど、どちらかと言えばガッチリした感じだった。週末はキャンプか登山にいくガチ勢らしい。この時期にはめずらしく少し日に焼けていた。それに転勤でこの街に来ているみたいで5年以内には東京に戻るという。私はこの街を離れたく無い。この段階ですでに私の条件に合わなかった。キャンプは年に2回くらいで良いし、かわいい顔が好きなのだ。車はBMWなのも良いのだけれど。

 二人目は、チャリ男。三十三歳年収500万円。趣味はカフェ巡りにロードバイクにフェス。私が毎年行っていたフェスの写真がプロフにのっていた。顔もかわいい感じだ。ただメッセージのやり取りに違和感はあった。私がおすすめのカフェを聞いても、唐突に趣味が自転車という話とともに添えられる、逆におすすめの店ありますか?というフレーズ。私の好きなカフェ、カフェ好きには超有名な店名を書いてみても、返ってくる薄いリアクション。最終的にその人の近所のスタバで会う事になった。嫌な予感はあったがその予感は的中した。顔は写真通り、ただ話が中身ゼロなのだ。フェスも去年はじめていき、カフェ巡りといえどもサイクリング時にたまにいく程度らしい。それにコーヒーを啜って飲んでいる。その段階で無理だ。啜るのはキツイ。こいつ、どこまでが本当なのだろう。疑心暗鬼に苛まれる。最後にこの後の予定を聞かれて、あると答えてからのすぐに切り上げようとする感じもダルイ。お別れの後にロードバイクで颯爽といなくなったのもキツイ。チャリでくるか普通。私の予定がなければ、サイクリングに行く羽目になったのか、なぁチャリ男。

 3人目は、キスバツ男。38歳。年収700万円。市の公務員。趣味はカフェ巡り、フェス。顔は全く好みでは無い。正直会うか迷ったものの、条件とスペックの良さは捨てることは出来なかった。実際に会ってみたが、軽く小太り。その地点でナシではあったが、話のテンポが合う。話していてとても楽しかったのだ。ただ無理だ。良い人なんだよ、良い人なのにキスができない。無理なものは無理なのだ。友達なら良いのだけど。車もエクストレイルで悪くは無いのだが。

その後は、良さそうな人はいてもなかなかマッチングできず、メッセージにこぎつけても返信が来ないなど苦戦は続いている。

 時々、私は何を求め、何をしているかがわからなくなる時がある。ただ、ディスプレイを見つめ探す事になんの意味があるのか。それにちゃんとした結果、未来があるのだろうが。最近私の友達にLINEで相談しても返事が悪い。私は悩んでいるし、辛いのに。コーヒーをまた一口飲む。ぬるいし、好きな香りが消えている。椅子から立ち上がり、電子レンジにカップを入れボタンを押す。今はやるしかないのだ。今までだってそうやってきた。電子レンジから、ピーって音が鳴る。湯気が立つカップは熱いってわかってる。袖を指先を隠してカップを掴む。コーヒーを一口飲む。熱くて啜るように飲んでしまう。熱々だ。ただ、香りは熱すぎてよくわからない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?