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香りの記憶・みかんの花が咲くころ

今年も、みかんの花があちこちで咲き始めました。
みかんの花の甘酸っぱい香りは、昔から大好きです。

あの香りが漂う頃…
毎年、思い出すことがあります。

私が夫と何となく付き合い始めたのは、今から15年前の2月でした。
付き合う、といっても…
その関係は、明確ではありませんでした。

出会ったころの夫は、とても警戒心が強かったです。
本心を見せず、少しでも近寄ろうとすれば、心を閉じてしまう。
なのに、どこか寂しがり屋だということは、私にはわかりました。

体の関係はあっても、夫が何を考えているのかはわかりませんでした。
15年前の3月は、お互い体温をむさぼるだけの関係だったのかもしれません。

夫は当時、女性に対するトラウマを持っていました。
前妻に裏切られたこともあり…
見た目だけはそこそこ良い夫に、これまで近づいてきたのはロクでもない女ばかり。

そして夫もまた、不器用な人でした。
自分の考えていることを、口に出すのが苦手。
自分の思いを伝えるのは、もう本当に苦手なのです。

見た目だけは割といいのに、近寄ってきた女からは「つまらない男」だと認定されることも、多々あったんだとか。

そりゃ、トラウマにもなりますよねぇ。
まぁ、不器用な人だから、あの見た目で「チャラ男」にならずに済んだ、とも言えますが。

まぁとにもかくにも、2018年の3月は、少しずつ少しずつ、慎重に慎重を重ねて、夫に近づいた時期でした。

その甲斐あって。
少しずつ、夫が心を開いてくれるようになった、と感じたのが4月でした。

夫の住む部屋に泊まりに行くことが多くなり、夫も少しずつ笑うようになってきました。
打ち解けてきた、という感じです。

ああ、ほんの少し、受け入れてくれた。
私はそれだけで、天にも昇るような気持ちでした。

夫の部屋に行くとき、私の車はマンションから徒歩5分ほどのところにある駐車場に止めていました。
ちなみに当時、私は実家住まいでした。

夜、夫の部屋に行き…
朝、帰宅する。
そんな日が続いていました。

夫との関係性が、少し変化した頃。
いつものように、駐車場に車を止めて歩いていたら…
ふと、甘い香りが私の花をくすぐりました。

それは、大好きなみかんの花の香りでした。
夫が住む部屋の近くにあるお宅の庭から、その香りは漂っていました。

そして、その年の5月7日。
その日は、夫の誕生日でした。
私も夫も、仕事が休みだったのを覚えています。

珍しく、昼から夫の部屋に行き…
トマトソースのパスタを作りました。
夫は「誰かに誕生日を祝ってもらうのは久しぶり」と、いたく喜んでくれました。

暖かい日だったので窓を開け、吹き抜ける風を楽しみながら、夫とテレビを観たり、ごろんと転がって昼寝をしたり。

晩春の暖かい風は、みかんの花の香りを届けてくれました。
今でも覚えています。

翌年、2019年の4月。
夫は、今住んでいる一戸建てに引っ越しました。
私が住んでいた実家からは、原付で3分の場所です。

その頃から、少しずつ「同居」あるいは「事実婚」に近い関係になりました。
お互いが、お互いを必要だと認識したのです。

そして。
今住んでいる自宅の、隣家の庭には…
ユズの木が植えられています。
毎年5月ごろ、やはり甘い香りを漂わせています。

あれから15年が経ちました。
しかし、ユズの花が甘い香りを漂わせ始めると、当時のことを思い出します。

はっきりしない関係のまま、時を経て…
警戒されながら、必死で夫に近づいた、あの頃。

当時は、しんどいこともたくさんありました。
ですが、長い年月の間に、私と夫は信頼関係を築きました。

今が、一番いい。
そろそろ、隣家のユズの花が咲き始めました。

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