「風の知らせ」
季節の入り口には必ず風が吹きます。
握り続けた夏の手を解き、秋を連れてくるのです。
その風は人々の元へ届き背中を押します。
秋は来ます、あなたのもとにも。
「もしもし?もしもし?」
「どうしたの?悪戯電話?」
「うーん、なんか変なこと言われた。秋が来るとかなんとか」
「何それ、怪しすぎるでしょ」
「だよね。しかも言いたいこと言ったら切れたし、意味わかんない」
「気にしない気にしない、忘れよ」
「じゃあさ、改めてさっきの続きだけどね、」
ガチャ
季節の入り口には………はあ、
必ず…風が吹きます…
背中を…押して…あれ、私、あれ、あれ……もう嫌、嫌よ。
こんなのはもう嫌、風なんていつでも吹いているわよ。そんなの誰だって知っているでしょ?なのになんでこんな事わざわざ電話で言わなきゃいけないのよ。
…いいえ、ごめんなさい。これは私の役目なのに、やだわ、怒られちゃう。ゴホン!
ガチャ
季節の入り口には必ず風が吹きます。
「あのー」
握り続けた夏の手を解き秋を連れてくるのです。
「もしもしすいません、聴こえていますか?」
その風は、
「ごめんなさいごめんなさい!もういいんですよ。いいんです。分かってますから、あなたの言いたいことは」
え?
「ごめんなさい、えっと、大丈夫だから、大丈夫。もう君は何も言わなくていいから。ね、もういいんだよ」
どういうこと…私はもう大丈夫?もういいって…
どういうこと?
「ああ、あとは僕に任せて。よく頑張ったね。無理かもしれないけど、またどこかで会えたら話をしよう。ね」
はい…うん…うん。
あなたにも風が吹きますように、届きますように。幸せになれますように。
さよなら。
「ああ、お疲れ様。みんなを見ていてくれてありがとう。次は貴方がまた心から笑えますように」
カチャ
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