ブックガイド(11)「その日のまえに」

(2013年 04月 27日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)

「その日のまえに」重松清


 この作品は、「」についての物語である。さらに正確にいえば死による「別れ」の物語だ。
 ゆるやかにつながった短編は、ある話では、学友の死に直面する少年、ある話では、余命の宣告を受けた父親、余命の短い妻の死に対する夫、など、さまざまな「別れ」とその「悲しみ」からの再生を描いている。
 登場人物たちを語り見つめる作者のまなざしの、なんという優しさよ。
 俺は、重松氏の作品を読むたびに、死と別れから逃れられない「人」に対する優しい気持ちが湧いてくるのを止めることができない。
 普段は、「けっ、人生なんて」とニヒルを気取りがちな俺が、すぐに家へ帰って、家族の顔を見たくなってしまう。そして、俺自身が、子供たちや妻から、どれほど支えてもらったかということを感じて、「ありがとう」という気持ちになる。
 読み終わるたびに、俺にそんな気持ちを与えてくれる重松氏の作品には心から感謝したい。

その日のまえに (文春文庫)

追記(2023/07/07)
 20歳の時に、高校時代の同級生が自死した。東京の大学に進学し一人暮らしだったそうだ。その時のショックが今でも私の創作の原点にある。「死」とはまさに残された者もまた乗り越えるべき大きな問題なのだ。

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