映画レビュー(140)「ニトラム」

2021年豪

1996年4月28日にオーストラリア・タスマニア島のポート・アーサーで起こった無差別銃乱射による大量殺人事件「ポート・アーサー事件」を犯人マーティン・ブライアントの生い立ちを絡めて描いた実録クライム映画。
ニトラムとは本名マーティンを後ろから読んだ渾名で、彼の知的障害故につけられたものだ。
抗うつ剤を処方され、母からも疎まれているマーティンは、芝刈りのバイトを通じてヘレンという元女優の中年夫人と友達になる。
ヘレンもやはり孤独な存在。何頭も犬を飼っているのはそのせいだ。同じように孤独なマーティンを息子の様に可愛がる。
しかし、ドライブ中にマーティンがふざけたことで、ヘレンは交通事故を起こして死んでしまう。さらに、うつになった父が自殺し、マーティンの心は少しずつ壊れていく。そんな彼の心をとらえたニュースがスコットランドの小学校での銃乱射事件。犯人の「はみ出し者、孤独者、変わり者、奇人」などの紹介を聞き、心に何かを決める。そして、最後の乱射事件に乗り出すところで、映画はニュース報道を聞く母親のシーンに。
何とも暗鬱な事件である。
孤独感を拗らせると人は「俺を見ろ、俺はここにいる」という承認欲求の化け物になる。そんな心理の襞を上手く描いている。
これは、もう一つの「ジョーカー」とでも言えそうな作品だ。
この事件を契機にオーストラリアでは銃の規制が始まった。

ニトラム

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