ブックガイド(43)「OUT」(桐野 夏生)講談社文庫
(2004年 03月 15日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)
先日、映画版を見たので読み返した。で、結論として、映画版は見なくてよい(笑)。また映画だけ見た人は、必ず原作を読んで欲しい。映画だけで判断しては、桐野女史が気の毒だから。
パートタイマーの主婦雅子はパート仲間が殺してしまった暴力亭主の死体を処理するはめになる。それをきっかけに、彼女たちの平穏な日常が、崩れていく。
凡庸な作品では、その平凡な日常に戻るために主人公たちは奮闘するのだが、この作品はそうじゃない!
「平穏な日常」を嫌悪していた主人公は、その中でたくましさを増していくのである。すごい。作者が女性であるからこそ紬ぎ出せた物語であろう。
読後感は重い、しかし、カタルシスがある。雅子の強さ、「男まさり」のようなかっこよさはなく、ちゃんと「女性の強さ」ならではのかっこよさである。俺と同様、この主人公の強さに喝采を送った読者も多いのではないか。凡百のエンタメではない。
昔、「単調で貧しい日常に倦み疲れた独身労働者(つまりは俺のような)」のカタルシスは「大藪春彦」の小説だった。暴力を背景にのさばる連中を、それを上回る暴力で倒していく大藪小説。
「OUT」を読んで、これは「平穏な日常に倦み疲れた女性」のための小説なのだと思った。
桐野夏生は女達のための大藪春彦になったのである(←少し暴論・笑)。
OUT 上 講談社文庫 き 32-3
(追記 2023/09/05)
この記事を書いた後、桐野作品群は私のバイブルになった。初期の女探偵ミロ・シリーズまで遡って読み漁ったものである。
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