ブックガイド(45)「大江戸庶民事情 江戸のまかない」石川英輔

戦後教育史観とは何だったのか

(2005年 07月 18日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)

 江戸時代は武士階級に支配され、農民は搾取され、町人は貧乏で、いつでも一揆などの階級闘争が起きる寸前の前近代だ、というのが、俺たちが学校で習ったこと。ところが、この本を読むと、そうではないことが明らかになる。大いに考えさせられます。
 また、同時に、武士階級も商人階級もそろって連を作って楽しんでいた狂歌が、どうして社会の授業では「武家支配の抑圧に対する人民の抵抗手段」になってしまうのか
 江戸時代は、のどかだった。俺たちは、戦後、社会主義的な歴史観を持った教員達に間違った江戸時代観を植え付けられていたのだった。先月に引き続き、大江戸ものを読んでいるが、目から鱗が落ちる思いだ。
 なかでも初めて知ったのが、江戸の上水。時期的にはロンドンの水道と同時期だが、その規模と管理など、世界で最初にして最大の事業である。パリよりも早い。市民の識字率なども含めて、江戸時代に、明治維新以降の近代化の礎はすべて完了していたということがよくわかった。
目次
●江戸という時代
江戸との出会い
教科書の江戸時代
元禄という時代
香港と江戸
江戸を見る
外国崇拝大国
江戸の中の近代
●江戸の楽しみ
江戸のファッション
江戸庶民のおかず
江戸のうなぎ屋
遊芸にかけた江戸庶民
江戸の出版事情
拳の話
●江戸の暮らし
江戸川柳と結婚
江戸の農地
木戸の話
無から有は生じない
小判と猫のエネルギー
昔のつくり酒屋
『上水記』を読む――江戸の飲み水事情
●言葉と江戸
西郷銅像の碑文
受け身形にこだわる
江戸のまかない―大江戸庶民事情

(2023/09/10 追記)
 小学校高学年の頃(1967~69)、学校で習う江戸時代の「士農工商」の階級区分は、インドのカースト制のような苛烈なもので、小作農はロシアの農奴と同じだとでも言わんばかりの内容だった。先生たちの表情には「だから日本にも労働者革命が必要なんだよ」という言葉がのど元まで来てるようだった。おかげで、「優等生」だった私は、中学校の頃には三一書房などの社会主義本や五味川順平の「戦争と人間」なんかを読むような左翼少年になった。
 それが現在では、「士農工商」は固定された階級でもなく、むしろ職能区分であると教えられている。
 ソ連の崩壊で、共産主義の幻影が醒めたのである。
 かつての左翼少年(私)も政治的には中道なのだが、一番左に立っている方たちからはネトウヨと呼ばれてしまう。そこから見れば、全員右側には見えますからね。

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