ブックガイド(4)「六番目の小夜子」

「六番目の小夜子」(恩田陸・新潮文庫)

(2004年 06月 17日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)
私が恩田陸という作家を知った作品。デビュー作でファンになった作家は彼女の他には栗本薫さんぐらいかな。

「場の魔力、場の魅力」

私たちの高校には伝説がある。
三年に一度、卒業生から在校生に継承される「サヨコ」の役。
サヨコには義務がある。サヨコをつとめる者はだれにもそれを悟られてはならない。その年の文化祭での全体講演の劇「サヨコ」のシナリオを書かねばならない。サヨコを勤めることを承諾した印に、一学期の始業式にクラスに赤い花を飾ること。
サヨコが無事に勤められた年は、学校にとってよいことがある。逆に失敗した年はよくないことが起きる。
そして、今年は六番目のサヨコの年でした。

どうです、この設定でもう私はKOされた。「やられた」と思った。読まずにはいられない。
さらに、この年のサヨコは「二人いた」のだ。
校内に伝わる「サヨコ伝説」はなぜ始まったのか?
なぜ続いているのか?
伝説が途絶えようとした年もあった。しかし、それを補強し伝説の継承を助けただれか、何かがいたのでは?私(読者、ちなみに43歳男)は、伝説の謎を追いかける高校生達と一緒に、あの頃に戻っていた。
 この物語のいとおしさは、帰らぬあの時代の思い出に物語を重ねてしまう私の世代には特に効く。
 読み進むうち、舞台の教室・廊下・校舎が自分の母校になり、登場人物は同じクラスの連中になった。(ひょっとすると、スティーブン・キングのハイスクールものホラーを読むアメリカのおじさんおばさんもこんな感覚を味わっているのかもしれないなあ)
 学校という閉ざされた装置を舞台に、テイストはホラーなれど、作者が描く(しかも上品に、今時なんと貴重なことだろう)のは輝ける「17歳」たちの恋と冒険だ。
 だが本当の主人公は作者の筆で緻密に描写される学校という、いわば「時の流れの止まった場」だ。この「場の持つ魔力」こそが、この物語の主題なのであろう。
 このテーマは、学校から故郷に装置を移して恩田陸の続く「球形の季節」でさらに鮮明な形を取る。
 これもおすすめだ。
恩田女史自らが脚本化を手がけたNHKドラマ「六番目の小夜子」(DVD発売中)も必見だ。微妙に登場人物が変えてある。しかも、美少女てんこもり(笑)

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