創作エッセイ(21)物語の中での読者への情報提示のタイミング

小説創作関係の気づきをまとめていく創作エッセイ、今回はタイトル通り、物語の進行に合わせて読者に情報を与えるタイミングに関して。


読者に与える情報とは

 まず登場人物の情報は、初めて登場したときに読者の脳裏に刻む必要がある。複数の人物が登場するときも同様であるが、一度に大勢登場する場合、一気に語ると読者が混乱する。そこで、何回にも分けて描写する。
 最初の登場時に、名前と同時に外見の特徴や服装などでうっすらと性格を提示、次に会話や行動などで背景や過去を提示しつつ二回目の名前を書く。
 さらに群像劇の長編の場合は、物語の進行に合わせて適時その人物が出てくるエピソードやシーンを配置する。
 そうすることで、複数の登場人物の名前やキャラを自然に読者の脳に刻むことができる。
 すると、登場人物の一覧などなくても物語の世界に読者を没入させることができるのだ。
 また、キャラクターの大切な情報は後から出さない。初登場時に描写されていない情報は、読者に委ねられたものとして、読者は自分のイメージで補完するものだ。数ページ読んだ後で、「ええ、この主人公、太ってるの?」という、読者のイメージを修正させるようなことをしてはいけないのだ。

情報には与えるべきタイミングがある

 慣れない書き手によくあるのは、一度に全部説明してしまうこと。
 会話や地の文で、一気に語ってしまうのだ。読者はそんなことは望んでいない。
 読みながら小出しに提示される情報に、
「~ってこういうことなのか?」という疑問を抱いて次を読みたくなる。そして、
「そうだったのか!」という満足感が、同時に、「じゃあ、~はどうなのだろう」という新しい疑問につながる。
 この「誘い、焦らし、満足感」のローテーションで本を置けなくするのだ。

情報の配置をどう決めるか

 これは事前に箱書き段階で決めておく。箱書きとは、そのための作業なのだ。だが、執筆しながら肌感覚で追加したり前後させたりということはある。
 すべて書き上げた後に、「~の事情は、もう少し前段で匂わせておいた方がいいよな」とか、「~の存在は、まだ証しちゃだめだろう」といった具合に修正を加える。この手間を惜しんではいけない。「~万字書き上げたぞ」という満足感は、すべての修正を終えてからにしよう。

タイミングのコツは?

 これはプロ作家の作品を浴びるように読むしかない。そして、同じシチュエーションを書いた自分の文とプロ作家の文を比較して、何が足りないかを自問するのだ。
 最近だと、池井戸潤さんの「ハヤブサ消防団」を読みながら、この情報提示のタイミングの上手さに唸った。
 また、執筆修業仲間のつたない文章もまた勉強になる。「?」と感じた時に、その理由と自分ならどう書くか、を考える。すると今まで勘でやっていたことの意味に気づくことができるのだ。
 同人誌やWEB創作サイトでの合評会の意味はここにあるのだ。

 以上、執筆上の気づきの文章化、参考になったであろうか。

 皆さんのご文運を祈ります。

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