見出し画像

『Tenacious D: The Pick of Destiny (2006)』:それいけ!ちびデブロック小僧!

初出;2007年3月31日(mixi)
 国際映画祭で一日に何本も映画を観ると、さすがに、何か気晴らしがしたくなる。そんな時に、観たくなったのがジャック・ブラック主演のこの映画『Tenacious D: The Pick of Destiny』。日本で公開されたのか、わからないが、邦題がみつからない。敢えて訳せば、『粘りのD:運命のピック』とでもなるだろうか。
 まあ、酒でも、迎え酒、というものがあると、高校に入って知ったが、今回は、そんなところか。
 まあ、基本的に、何も考える必要のない、痛快ロックオペラ(?)だ。冒頭から、ジャック・ブラックにそっくりの子供が、東部の田舎街の閑静な住宅地、祈りの後の夕食を迎えるクリスチャン一家の食卓、突如として静寂を打ち破り、悪魔のようなヘビーメタルを、奏で出す。
 そして、実は、ハードロックの本物のボーカルらしい、厳格なお父さんに、お尻を叩かれ、ハリウッドを目指す。各地の賞ハリウッドを転々とし、西海岸に着くまでには、すっかり大人のジャック・ブラックになり、そこで天才ギタリスト(だと思いこんだ)、カイル・ガスとの運命的な出会いを果たす。幾つかのヘビーメタルな曲折を経て、コンビを組んだ二人は、運命のピックを求めて、ロック歴史博物館へ…。
 まあ、痛快ロックオペラなので、話の筋は、あまり重要ではない。とにかくこれは、ジャック・ブラックとその相棒カイル・ガスとの、天才的なハードロックな動きを楽しむ映画なのだ。ちびデブだけど、地獄のロック魂に萌えるジャック、ちびデブのうえに、もう一つの不幸を背負った、カイル。演奏と歌が、彼ら自身によるものなのか、そうでないのかはわからないが、もし形態模写だとしても、そのキレの良さ、動きの軽快さ、転がるような、ロック小僧ぶりに、笑いと、驚嘆が、こみ上げてくる。
 まあ、この時は、館内に私を含めて、二人しか、観客がいなかったが、まったく気にならず、二人とも喜んでいた。
 難をいえば、もっと・もっと・もっと・もっと、最初から最後までとぎれることなく、デブな二人のオタクなキレと、ハードなベースの重低音と、伸びのあるボーカルの超高音で、飛ばしきって欲しかったのだが、まあそれは、昨秋に観たミュージカルの古典『ジーザス・クライスト・スーパースター』と比較してしまった私の強慾というものだろう。
 なんにせよ、私にとって、ジャック・ブラックは発見だった。『ホリデイ』のケイト・ウィンスレットの相手役だけでは、彼の才能は見抜けなかった。確かに、CDショップのシーンで、その片鱗は、見せていたのだが…。彼は、今年のアカデミー賞授賞式でも、太ったカラダに汗をかきかき、歌と踊りで盛り上げていたし。
 しかし、フットワークの軽いデブ、という存在は、アメリカ特有のものののか?マイケル・ムーアが、あの巨漢でありながら、軽妙な足取りで飛び回るシーンにも、それだけで感動を覚えた私。これもまた、アメリカンデブか。そう、マイケル・ムーアに次ぐ、アメリカンデブの快男児、ハードロックな、ジャック・ブラックの真骨頂、それいけ!ちびデブロック小僧!それがこの映画。
 映画祭の疲れがとれたことは、いうまでもない。やっぱり、迎え酒って、あるんですかね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?