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clean_auk133
真夏の美ヶ原
遠くのほうに目をやると、いちばん高い丘の上に、無機質な尖塔が何本も並び、その近くに無骨な要塞が鎮座していた。
後方から、土煙を上げながら、乱暴なバスがやってきた。
バスは無言で横を走り去り、先ほどの建物をめざして進んでいく。
去り際、バスの窓に目をやると、人の顔がガラス越しにいくつか透け見えた。
皆、あの館に泊まるようだ。
間近の景色に意識を戻すと、天を貫く夏空が頭上を覆い、強烈な日差しが凄まじい色彩で全身にかぶさってきた。
その下に静かな草原が広がり、のんきな牛たちが放たれている。
寝そべる牛。
草を喰む牛。
ノソノソと巨体を動かす牛。
じゃれ合う牛たち。
彼らはとても幸せそうに見える。
そんな牛たちを見ていると、不思議とフワフワしてきて、こちらも幸せな気分になってきた。
あのバスの乗客たちはきっと、この高原の広さを、夏の本当の暑さを知らないだろう。
自然の魅力は、生身で対峙してこそ沁み渡るように実感できる。
丘の上のホテルに向かって、一本の道が緩やかなカーブを大きく描いて伸びている。
美ヶ原の最高峰は、近いようでまだまだ遠い。
目の前に続くこの果てしない距離が、美ヶ原の雄大なスケールを物語っている。
汗をかき、その道のりを一歩づつ踏み締めながら、自然の奥ゆかしさに感動する自分がいた。
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