運動法則と因果律の関係について

因果律

まず、因果律を定式化する。

『他の条件が同じならば、同一の原因から同一の結果が生じる』

本来、因果律を定義したり、証明したりすることはできないが、その性質の一つを定式化すると以上のようになる。

運動法則

次に、ニュートンの運動法則は次の三つからなる。

 一、慣性の法則。すべての物体は外力を加えられないかぎり運動の状態を変えない。
 二、運動方程式。Fを力、mを質量、aを加速度とすると、F=ma。
 三、作用反作用の法則。二物体の相互作用はつねに等しく逆向きである。

定理

私は、「因果律は運動法則の十分条件である」という定理を提案する。ここではその部分的な証明を行う。

証明

まず、作用反作用の法則について考える。因果律が作用反作用の法則の十分条件であることを証明するためには、その対偶を証明すればよい。つまり、作用が反作用に等しくないならば、因果律が成り立たないことを証明する。

いま、質量Mの二つの物体が、互いに速度V0で近づいているものとしよう(図1)。二つの物体は全く同じ物理的性質を持っているとする。二物体は衝突したのち、はじめと反対の方向に運動を始める。衝突のさいに二つの物体に働く力をそれぞれF、F’とし(図2)、衝突後の速度をV、V’とする(図3)。

ここで、もしも作用反作用の法則が成り立っていなかったとしたら、F≠F’となり、とうぜんV≠V’となる。このとき、どちらがFでどちらがF’かという選択に応じて、異なる二つの結果が可能であることが分かる(図3、4)。

図1 初期状態
図2 衝突
図3 結果1
図4 結果2

つまり、左側の物体にF、右側の物体にF’が働く場合と、左側の物体にF’、右側の物体にFが働く場合の二通りがある。しかしながら、二物体の物理的性質は同一であると仮定したので、二つの場合のうちどちらが現実に選ばれるのかを決めることはできない。ゆえに、一つの初期状態から二つの異なる結果が可能であることになり、因果律は破れていることになる。したがって、因果律が満たされているならば、作用は反作用に等しくなければならない。
 

いまは簡単のために両物体の質量が同一だと仮定したが、異なる質量であっても同じ議論が成り立つことは明らかである。ただし議論の前提として、一つの物体に異なる大きさの二つの力が働いたときに、それぞれ異なる大きさの加速度を受けることを認める必要がある。この仮定を証明することは運動の第二法則を証明することになると思われるが、因果律に基づいてこれを証明することは可能であろう。

また慣性の法則は、原因がなければ結果が生じないことを意味している。運動の状態という結果は、外力という原因に応じて変化する。同一の外力から同一の運動状態の変化が生じるためには、外力を受けない間は、運動状態が変化してはならない。ゆえに、因果律は慣性の法則の十分条件だと言える。厳密な証明は省く。

以上で、運動の第一、第三法則は証明されたものとする。残る第二法則の証明は、各自考えてほしい。「因果律は運動法則の十分条件である」という定理を部分的に証明した。

結語

ネーターの定理は、物理学における諸種の保存則を対称性に即して説明する。しかし、対称性よりも因果律に基づいて保存則を説明するほうが、より明確かつ統一的な理解が得られるだろう。保存則が因果律から導かれうることは、ここで行った議論によって示唆されている。

私がここで示したものは数学を用いない力学である。解析的力学に対する因果的力学と言ってもいい。これは、私が展開しようとする新しい量子力学と対をなすものである。


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