イグBFC2感想【グループH】
イグBFCというイベントは自分にとってとても楽しいものでした。ここには、計88通りの狂い小説の可能性が眠っています。
草の根イグの一環として、狂いの可能性を探っていくために感想を書いていきたいと思います。もし何か問題がありましたら、灰沢までお問い合わせください。よろしくお願いします。
ゴールデンライン・インザレイディオ・オーイエー
ラジオを扱ったもので有名な作品だと村上春樹「風の歌を聴け」やいとうせいこう「想像ラジオ」があります。くくりがざっくりしすぎていますが、そこではラジオが喪失感を伝えるものとして用いられています。一方しわのすけのしわっしわレイディオはその雰囲気が皆無どころか、MCの進行に微妙な意地の悪ささえ感じるところがあります。指示語で伝えちゃうところはリスナーのことを何も考えていなくてよいなと思いました。このラジオは聞き流すには内容に突っ込みどころが多く、なんで人気あるんだろう……と感じさせるナンセンスなところがありました。ところどころで出てくるたまのすけの適当すぎる番組進行がよかったです。
汐留の殺人
これも今見たら消えてましたが、misonoのエピグラフはずるいと思いました。あのエピグラフを見た瞬間、勝ち負けがすぐに決まってしまう感覚すら覚えました。misonoを持ってくるセンスはほんとうに羨ましいと思います。misonoに汐留感がそんなにないのもポイントが高いです。misonoのエピグラフを冒頭に持ってくるのは次回以降禁止にすべきだと思います。本編も、事件→推理→解決(仮)までの展開をコンパクトにまとめながら探偵とその周辺の人々によるセリフの応酬で笑いを生み出していて(と覚えています)、小説のうまさを強く感じました。会話劇だとツッコミがうまく自然なセリフを発せられるかが大事なんだなと感じました。misonoのエピグラフを読むことができてとてもよかったです。
指紋
「百舌鳥の高鳴きを聞いた。」という一文が全体の方向性をまとめ上げていると感じました。この一文だけでも、取り残された老女というイメージを強く喚起させていると思います。作中世界に奥行きを与えるような表現であると感じました。テーマとしても、指紋がもつ二つの文脈をうまくくっつけることに成功していて、面白みを感じました。個人的にはオープンエンドより終わりが明確なものの方が好きなのですが、こういう終わり方もありかもしれません。最後に出てきた、ぴしと割れた指という表現は、非常に小説的というか、暗示的なものがあります。描写で克明に語るという技術がわたしはド下手で、ド下手ゆえにあまり使おうとしていないのですが、こういう風にうまく使えるといいなと思いました。情景の出し方に技が感じられて、よかったです。
前歯はダイヤモンド
ヤンス文学でした。ヤンス系のキャラにこんな重い生活が乗っかってる例はあんまりない気がするのでそこが面白いと思いました。のぼるはヤンス系ですが、ヤンス感があるのは外見だけであり、内面は別にヤンス系ではありません。文体はむしろトラディショナルな小説の型をとっています。笑うべきではないのですが、その齟齬が面白いというか、ゲームセンターあらしが近代的人間としての自我を確立したらどうなるか? という意図なのかな? と感じました。つまり、ヤンス系の救済。前歯をダイヤモンドに仕立てようとする意志は、なかなか恐ろしいものがあります。ギャグマンガ的展開をムーディーに仕立て上げられることこそ小説の最大の強みだな、ということを改めて感じました。もしくは、のぼるのヤンスな前歯は、織田の代わりにスケバンの金髪を贖うものとして輝いたのかもしれません。ヤンス文学の最前線に触れることができて、よかったです。
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