イグBFC2感想【グループC】

イグBFCというイベントは自分にとってとても楽しいものでした。ここには、計88通りの狂い小説の可能性が眠っています。

草の根イグの一環として、狂いの可能性を探っていくために感想を書いていきたいと思います。もし何か問題がありましたら、灰沢までお問い合わせください。よろしくお願いします。


『速習西洋論破哲学 ひろゆきからマルクスまで』

わたしは幸村さんが主催する読書会に参加したことがあります。そういう個人的な関係もありましたが、そういうことを抜きにしても面白かったです。

幸村さんは今作のような傾向の作品はもう書きたくないと言っていました。もちろん書きたい方向性(BFC3の『煙る指先』など)が明確なのだとは思いますが、それを踏まえた上でも、幸村さんにはこういう方向性のものを書いてほしいと思っています。なぜなら、「西洋論破史において、作者の死は論破にいかなる影響を及ぼしたのか?」という問題が未解決だからです。

このテキストで触れられているのはマルクスまでです。そして、幸村さんはロラン・バルトを研究対象にしています。バルトは「作者の死」という概念を示した人です。この小説のラストは、「ひろゆきは作者を論破した」です。では、作者の死が語られるようになって以後、ひろゆきは論破すべき対象を失ってしまうのではないでしょうか? そして、ひろゆきはその論破の方向を自分に向けざるを得なくなるのではないでしょうか? 作者が死ぬとき、ひろゆきもまた死ぬのです。ですが、ひろゆきはそれすらも論破してしまうのかもしれません。わたしが言いたいのは、イグみのある小説はこれからも書き続けてほしい、ということなのです。少なくともわたしは、「マルクス以後」の論破史が書かれることを今か今かと待ち続けています。


『小指の指輪』

これもイグではなくBFCで戦えるんじゃないかと思える作品でした。

感情や思考を書かず、行為と情景だけで男の有り様を伝えようとするストロングスタイルの作品でした。

読者に情景を想像させ、最後の指輪が音をたてるシーンで感情を高めていく仕組みが、よくできていると感じました。ビートルズのくだりを書いてから、ラジオで流れる曲がアニメだったとするディテールも、男の置かれた状況の提示のために効果的に作用していると感じました。作品としての完成度は文句なしに高いですが、イグ的狂い要素があるかというと、申し訳ないですがないのかなと感じました。ですが、それは基準に合う合わないの問題に過ぎません。完成度の高い作品が読めてよかったです。


『自由への飛翔』

まず思ったのは圧倒的に短いという点です。強気すぎます。たった5行ですべてを終わらせる覚悟はイグ的だなと強く感じます。その思い切りのよさが恐ろしいなと思いました。

作者がすでに空も飛べるはずの言及をしているのでどうしてもスピッツ読みを誘発してしまいますが、面白いのはどう頑張ってもイントロが流れる間にこの作品を読み終わってしまうということです。いい感じに「きっと今は 自由に 空も飛べるはず」という歌詞と小説をリンクさせるには、「全裸の男がシュッシュ」の箇所を恐ろしくゆっくり読む必要性に迫られます。実際にやってみましたが、「あの歌って全裸の男がシュッシュする体験についての歌だったの!?」という気持ちになれました。かつてない体験ができて、よかったです。


『疼愀嗄蠢』俳句四句

秋の夜はとにかく左とん平す

この句は天才だと思いました。この句の出現により、この世界は左とん平を動詞化して扱うことができるようになりました。今まで、わたしは左とん平を名詞として扱ってきました。いや、実際のところは、左とん平という固有名詞を意識することはほぼなかった、と言っていいでしょう。わたしは左とん平という人物について、恥ずかしながらよく知りませんでした。この句を読んで、左とん平のことを調べました。NHK人物録というページに掲載されていたインタビュー動画で、左とん平さんは自分は計算された笑いがやりたいのだと話していました。寂しい秋の深い夜にも、人を笑わせることを目指して地道に鍛錬を重ね左とん平していく。この句は、イグの精神を体現していると読めました。誤読かもしれませんが、わたしはそう読んで感動しました。この世界において、左とん平を動詞として扱うことが許された瞬間に立ち会うことができ、よかったです。

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