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卵の割り方

著:きき


みなさんこんちは。ききです。今回は石松太さんの短編集『卵の割り方』より、表題でもある『卵の割り方』を引用させていただきます。楽しんで。

目覚ましの音で目を覚ます。
眠気が残る体を動かして電気をつけ、洗面所へ。
顔を洗い、スマホを見る。
時刻は6時12分。
足早にキッチンへと向かい、朝食の準備をする。
子供たちはまだ寝ている。
あの人はそろそろ起きる頃だ。
新聞を取らなくては。
冷蔵庫から食材を出す。
今日も4つ、卵を割る。

『卵の割り方』

まっくらなせかい
ここはどこ?
わたしはだあれ?
ここはとてもせまいや
どうすればいいんだろう

おそとがさわがしい?
だれか、わたしのほかにだれかいるのかな
ここからだして
わたしはここだよ!!

・・・へんじがない
わたしがでるしかないのかな~

どうやってそとにでよう
あるきまわってみる? 
コツ
でぐちはなさそう
コツ
なにいまのおと!
わたしのはがあたったおと?
もしかして
はをつかえばでれるかな
やってみよう!!

『卵の割り方』

気配を消す。
気配を消す。
ターゲットは既に決めている。
いつ家にいるか。
いつ家から離れるか。
いつ警戒を緩めるか。
今日こそ決行の日である。
気配を消す。

時が来た。
ターゲットを守るものは今消えた。
ゆっくりと、冷静に近づくのだ。
急いては事を仕損じる。
心臓の鼓動を抑えろ。
見つけた。
万全の状態だ。
さっさと済ませよう。
顎を外し、飲み込む。
まだ喉の途中だが、飲み込んだ今、この場を離れるほうが優先だ。

ここまでくれば大丈夫だろう。
先ほど飲み込んだ卵をさらに飲み込む。
食道近くまで来た。
殻にヒビが入る。
筋肉に力を込め、押し潰す。
殻を吐き出す。
うむ、いい味だ。

『卵の割り方』

①卵を片手で持つ。この際、親指、人差し指、中指の3本で卵を野球ボールを握るように持つ。薬指と小指は軽く添えて卵を支える。
②平らなところに卵の中央を数回ほど軽く打ちつけ、ヒビを入れる。
③先ほど入ったヒビの割れ目に両手の親指を入れ、左右に開く。
*卵を2つ以上用意している場合、次の手順を追加してもよい。
両手に1つずつ持ち、両中央部を打ち付ける。片方にヒビが入るため、そこからは③へ。ヒビが入らなかった方は、もう1つ卵を用意し、同じ行為を繰り返すか、前述のやり方で卵を割る。

『卵の割り方』


『卵の割り方』いかがでしたか?
僕はこの短編集、大好きなんです。今回はひとつしか紹介できませんでしたが、他にも『FEVER』『ある土手の雲』『情景:近海:粉』などいろいろ収録されているのでぜひ読んでみてください。



※石松太さんは架空の人物であり、短編集『卵の割り方』は存在しません。あしからず。


この記事を書いたメンバー


好きな寿司ネタは炙りトロサーモン

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