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アラフィフのファースト・ピアスと辞書と
アラフィフのファースト・ピアスにはワケがある
ピアスの穴を開けた。
アラフィフのファースト・ピアスデビューである。
いつもの美容クリニックに予約を入れる際、顔のシミ取りに加え、「ピアスもお願いします」と私は言った。
何だかファストフード店によくありがちな、「いっしょにポテトもいかがですか?」的な軽い感覚。
ピアスの穴を開けるのをさんざん悩んだくせに、実にあっけなかった。
この年までピアスをしなかったのには、ワケがある。
ピアスへの憧れを封印した強烈な4文字
幼い頃、母が「ピアスと赤いマニキュアをする女は淫売」と言ったことにとらわれていたからだ。
あの時、私は確かに幼かった。
だが、「いんばい」という言葉の響きから、隠微な感じを受け取っていた。
私は自室がある2階に上がり、ドキドキしながら「いんばい」という言葉を辞書で調べた。
調べたら、鼻から熱い息が漏れるほど、さらにドキドキした。
そして、ピアスへの淡い憧れをそっと胸に閉じ込めた。
大学に入ると、女子の多くはピアスをしていた。
女子だけでなく、男子でもピアスをしている人もいて、おぼこだった私は衝撃を受けた。
でも皆、母が言ったような「いんばい」ではなく、ごく普通の学生だった。
それでも私は、母の放った強烈な4文字にとらわれ、決してピアスをしようとはしなかった。
今になって考えると、母は私をピアスもできない子どものまま、自分の手元に縛り付けておきたかったのかもしれない。
真意はわからないけれど。
そして私はまんまと母の思惑通り、心のどこかでピアスを怖がっていた。
この年になるまで。
ピアスは支配と決別した証
だが、ピアスをしても、私は母が言うような人間にならなかった。
何であんな頑なにピアスを避けていたんだろう?
いや、避けていたのはピアスではない。
単に私は、母に怪訝な顔をされ、不機嫌になられるのがイヤだったのだ。
そう考えると、今、耳元で光ってるピアスは、言葉による母の支配を断ち切った証のようにも思えた。
これから先、私は今と変わらずまじめに働いているだろう。
ピアスをしたからといって、運命が変わることもない。
だって、運命は自分で切り開いていくものだから。
こんな小さなピアスに、私の人生を支配されてたまるか。
私はまだ新しいピアスをいじりながら、心でそうつぶやいた。
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