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俳句夜話(8)幻想俳句集団「む」の奇妙な俳句

前説が長くなりましたが、やっと紹介できます。
75句、一気にいきます。

1 立春や女の首の落ちる音

2 居住まいを正し暦へ火を放つ

3 エプロンのまま夕焼けを泣いたまま

4 高すぎる青すぎる空 始業式

5 揺れている女から夏ローカル線

6 鮭の川沈んでいるのは夜ばかり

7 冬晴れはコカコーラから骨の音

8 スカーフを巻く指先の自暴自棄

9 家中の匂い担いで父不在

10 十月のあくびの底の不幸せ

11 声さえも煙るランプの地下書店

12 生きるのは面倒なもの チクタクと

13 夕凪の海を切り取るガラス売り

14 是非だけの牡丹安楽死をやろう

15 未知の花外科室に散る未知のまま

16 神の留守階級闘争せよ乳房

17 天球儀鷲掴み居る有頂天

18 両性具有たったひとりの心中を!

19 白亜紀より川流れ牛の舌を舐め

20 淵の底にまた瀬を見たり夕桜

21 縄跳びの中は少女の宇宙です

22 預言者の手錠外れる骨の谷

23 雪うさぎ国境沿いは大火です

24 はいはいと大根おろす遊び人

25 今日一晩 あたいはあなたのマグロです

26 逆上がり切り離された午後三時

27 「人体を分け入る指ね」草いきれ

28 くるぶしをほどく愛撫の散歩道

29 エナメルを爪に重ねる武装の日

30 夜明け前汗も分かれて乾きます

31 はなびらに仮寝の吐息ふさがるる

32 ふれてみたいくちびるみぎのめでなめる

33 衿足の翳る時刻や猫まるく

34 凪いでいる皮膚なめらかに自涜する

35 姦淫の鍵の在り処や臍(ほぞ)狭き

36 まだ死なぬ蜻蛉うすはね裂けている

37 月夜なり 家打ち捨てて歩くかな

38 沈む陽を蜉蝣の群れ曳航す

39 青芝に溶けゆく母を踏みしかな

40 花茣蓙に死を積んでいく昼の月

41 八月の涙は喉につんのめる

42 虫かごはむしの死ぬのを待っている

43 二の腕に声染みついて妊りぬ

44 日蝕が始まっている白い妻

45 寂しさが足りない夜の紅は濃し

46 東京にテトリスの雨積みあがる

47 煉瓦街落書「もへじ」の目は泪

48 銃口は何処ライオンが老いていく

49 半月の不在コトコト煮ています

50 死ぬまでのことをするのね蜜柑剥く

51 叱られて地球を万引きする少女

52 燃える影十七歳の名前を告げる

53 ジッパーをあけたらデボン紀の空

54 クレヨンのしけた憂鬱(ゆーつ)は非売品

55 辻に立つ黄色の風よタンバリン

56 ケチャップを買いに出かけた姉は誰

57 ここからはもうだれもいない砂の時

58 霧深き暦の日々の鯨狩り

59 黒箪笥魚影奏でて星祭り

60 満ちて夜湯のごときものほとばしる

61 寡婦の夏 指先にふと黄泉が居る

62 雪原に朽ちた思念の後ろ髪

63 雑兵が背に退屈の旗立てて

64 床の間に面影の人黴ている

65 私事(わたくしごと)捕えてみれば流線型

66 わたしたち溶接されてここにあり

67 空耳の丘で日時計止まり、夏

68 冬木立泣きべその空ひきうけて

69 切手貼る指のあいだで待つ返事

70 抱きしめる背には知らない窓がある

71 ブルースを炒めています貝の町

72 満月をひっさげて酔う左利き

73 さめていく口づけぽろぽろ寒椿

74 耳朶を咬みたいだけの愛もある

75 完全燃焼超美技だと 糞ったれめ

いったん解説なしで鑑賞してみてください。

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