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フィリピンで聞いた怖い話⑤【ドッペルゲンガー 悪魔篇】

前回ドッペルゲンガーにまつわる不気味な話をしてくれたセドリック。

実はもうひとつドッペルゲンガーの話があるんだ、と言って聞かせてくれたのが今回のお話である。

舞台は前回と一緒、セドリックの従姉たちが住んでいる一軒家。
それは例の従妹のドッペルゲンガーが出た約1年後のことだった。



その日その家に居たのは、おばさんの子供たち2人だけだった。

当時その二人は小学生で、下の妹は低学年くらい、お兄ちゃんは高学年くらいだったそうだ。




その日の夕方、妹は1階で1人おもちゃで遊んでいた。すると2階から兄がバスケットボールを持って降りてきた。これから友達と遊びに外へ出かけると言う。

私も一緒に行きたいと妹はせがんだが、お前がいると邪魔だから、と言っておいて行かれてしまった。仕方なく妹は1人家に残って遊んでいた。

しばらくすると、家の窓から外でボールをつく兄の姿が見えた。妹が玄関を開けると、兄は「喉が渇いたから水を飲みに来た」と言って家に入って行った。

そのあと少しのあいだ妹は玄関先で遊んでいたが、兄が気になって自分も家に入った。中を見ると、兄の姿が見えない。水を飲みに来たと言っていたはずだが、キッチンにもいなかった。

すると2階からバスケットボールをつく音がした。妹は2階に上がった。兄妹の部屋を開けてみたが、そこにもいなかった。

―どこかに隠れてるのかな? そう思って他の部屋も探し回ったが、見つからない。やっぱり1階にいたのかと下に戻ってみたが、それでも見つからない。

ひょっとしてもう外に出かけたのでは? いやそんなはずない。自分はさっきまで玄関にいたのだ、そこですれ違っていないのだから、兄は家の中にいるはずだ。それなのに、兄の姿が全然見えない・・・。


すると突然、「おーい!」と2階から兄の呼び声がした。

その時点で妹は少し怖くなった。さっきあれだけ探したのに、2階に兄はいなかったのだから・・・。

「お兄ちゃん、どこにいるの?」
妹が声を上げると、
「ここだよ。こっちにおいで」
とやはり2階から声が返って来た。

恐る恐る2階に上がり、まず兄妹の部屋を覗いてみた。兄の姿はない。他の部屋を開けてみると、兄を発見した。

兄は、母の寝室に居た。それも、ベッドの上で丸くなるように屈んで座っていた。普段、兄がこの部屋に入ることなどない。しかもベッドの上で・・・一体何をしているのか?


「お兄ちゃん、何やってるの?」
妹が恐々と声をかけると、兄はゆっくり膝の上から顔を上げた。




それは紛れもなく兄の顔であった。が、しかし、それは兄ではなかった。

目が違った。その目は普段の兄の、いや、人のものでは無かった。真っ赤だった。それも充血の赤目ではない。白目も黒目もなく、目の中が一面まるで血のように赤かったのだ。

兄の顔をした”そいつ”は、無表情のままその真っ赤な目を妹に向けた。妹は猛烈な恐怖に絶叫しながら家を飛び出した。

泣きじゃくりながら家の前を走っていたところを、近所のおばさんに声をかけられた。一体どうしたのと尋ねられ、今見たものを話した。そのおばさんについて来てもらい、一緒に家に戻った。おばさんに家に上がってもらい中を見てもらったが、誰もいなかった。

しばらくして、「ただいま~」という声と共に誰かが帰って来た。バスケットボールを片手に玄関先に立つその人は、普段と変わらない、いつもの兄だった。

今見たものの話をすると兄は「はぁ?」と言った感じで、自分はずっと友達と遊んでいて、当然その間家に帰ってなどいないと言う。後で兄の友達に聞いてみても話に相違はなかった。

結局その日妹が見たものは何だったのかは分からない。それ以来同じようなものが出ることも無かったと言う。



「たぶん”悪魔”だったんじゃないか、ってみんなは話てたよ」

肉まんを齧りながらあっさりとセドリックは言った。

悪魔て、テキトーなこと言うなぁと俺が笑うと、「いやいや、悪魔ってもんはいるんだよ」とごく真面目な調子で応えた。そしてこんな話をしてくれた。

これは近所のおばあちゃんの話。そのおばあちゃんは悪魔を見た。ある早朝、なに気なく家の外を窓から見ると、何か変なものが歩いているのが見えた。見ると、悪魔だった。つまり、見た目がそのまんま悪魔—赤い角と赤い目をした男—が、さらにご丁寧にあのデカいフォークみたいのまで持って歩いていたというのだ。
悪魔を見た直後、おばあちゃんはおかしくなっちゃったそうだ。喋らなくなり、何を問いかけても反応しなくなった。ベッドから出れなくなり、ずっとぶるぶる震えていたという。見かねた家族が、おばあちゃんに水をぶっかけたところ、正気に戻った。なぜ水をぶっかけたのかというと、悪魔に憑りつかれた際にはそうするものだから、だそうだ。(おばあちゃんに水ぶっかけるとか悪魔より心臓止らないか心配だが…)

なんか”悪魔”なんて出てくると一気に現実味が失われて笑ってしまいそうだったが、セドリックの話ぶりからすると、フィリピン人にとっあながち冗談でもなさそうだった。つまり、悪魔というのは身近で具体的な恐怖の対象なのだ。

悪魔なんてものは胡散臭い、リアリティの無いものと感じてしまうのは、それはノン・カトリックな俺(ないし日本人一般)の感覚のせいかもしれない。つまり、カトリックの信仰厚いフィリピンの人々からすると、不気味な事や不可解な出来事が起こったとき「悪魔の仕業じゃ」と考えるのはごく自然でポピュラーな解釈なのかもしれない。

日本だって、地縛霊に憑りつかれてからオカシクなって~とか、神社で悪さしたから祟られて~といった怪談話で定番の解釈も、異なる宗教・文化の人たちからすればナンセンスで噴飯モノなのかもしれない。

怪談話というのは、全く信じない人からすればどれも同じく馬鹿げたウソ妄想話に聞こえるのだろうが、怖さ・ゾクゾクとしたものを感じる人にとっては、その怖さ・ゾクゾクしたものを感じ取るために、説得力を与える何らかのリアル感、「さも本当にありそうな何か」を、”根拠”として心の中で無意識的に抱いている。それは霊魂だったり悪魔だったり精霊だったり・・・と、宗教や文化習俗に依るところも大きいだろう。

余談だが、アメリカの怖い話を探してみると、ほとんど人間に関する「本当に一番怖いのは人間」系の怪談ばかりが見つかる。海外の怪談話を比較してみると、その国の人々が「本当に怖いと感じるもの」が透けて見えて、またその違いが面白い。


さて話をフィリピンに戻して、ちょっとした後日談。

それから数週間後、俺はセドリックの家に遊びに行った。親戚の誕生日パーティーやるからおいでよ、とのことで、俺、知らない部外者だけどいいの? って感じだったが、まぁ誕生日というのはかこつけで、親戚近所の友達でワイワイ飯食って酒飲んで楽しむだけだから誰でもウェルカムなんだそうな。

その言葉通りオープンでゆるいパーティで、俺もセドリックのお母さんの手料理を味わいながら色々な人との会話を楽しんでいた。
するとセドリックが「バーベキューやるから手伝って」と呼ぶのでついて行くと、自分の家の前の道路を渡って向かいの家の前に炭とグリルを置き、おもむろにジュージューと肉を焼き始めた。

おいおい、こんな人の家の前で肉焼いていいのかい? と俺が気にするのをよそに、「大丈夫だよ。だってこの家も俺の親戚の家だもん」と平気な様子で串を並べるセドリック。すると、

「あっ、そうだ! jun、こないだ話したドッペルゲンガーの話、おぼえてるかい?」

と突然串をひっくり返す手を止めてこっちを見た。そして目の前の緑の門で閉ざされた家を指さし、あっさりとこう言った。

「この家だよ」


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(↑実際の家の写真)

えええっ??!ここ!!?

まさか、今目の前にあのドッペルゲンガーハウスがあったとは!!

「でも今は誰も住んでないよ」

セドリックは言う。なんでも1年ほど前に地区の区画整備における立ち退き要請に当たってしまったらしく、あの従妹の家族も皆別のところへ引っ越してしまったそうな。

たしかに人がいる雰囲気はなく、外から見える中の様子も半端に解体途中といった感じで、資材やら道具やらが置かれていた。

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ホントは中に入って見てみたかったが、流石にセドリックも勝手に入れないとのことで諦めた。

近所でもドッペルゲンガーが出たなんて話は、この家だけらしい。またこの家は昔から呪われてたとか、そんな噂も無かったそうだ。これが建ってるこのエリアは人の往来も多い賑やかな下町だ。ましてや昼の太陽の下、ビールを煽りジュージューを肉を炙りながら眺めていると、怖いという感情は一切湧かないし、オカルトな雰囲気も全く感じられない。

なんだかちょっと拍子抜けしつつも、不思議な話の舞台が目の前に立っているのは面白いなぁと思った。まぁひょっとしたら全部奴(セドリック)の作り話だったりしてなぁ、それはそれで面白いけど・・・なんてことを考えながら俺も肉にバーベキューソースを塗りながらビールを飲んでた。そんな話。

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