左利き

私は、左利きである。
家族の中で唯一。
多数派右利きの人にはおそらく想像もできないであろうが、
左利きは世の中で色々と迫害を受けている。

迫害と言うのは大げさだが、
微々たるストレスを絶えず受けているという感じ。

ただし、これは右利きの人には解ってもらえない。
まあ、強いて言えば。。

日本人がパソコンでキーボードを打つ時のストレスに似ている。
数字とアルファベットとカナ文字を交互に打つ時に感じるストレスが近い。エクセルを扱いながら、
「あー、英語圏の奴らはこのストレスが一切無いんだよな~、下手すりゃ仕事の効率が倍ほど違うよな~。」
って感じるだろう。
変換モードを間違えたときのいら立ち!
あの感覚を左利きは四六時中感じている、と言えば少しは解って頂けるだろうか。

今でも覚えている。
初めてえんぴつを手にした時、
左手でしっかり握ったことを。

親が書く字をマネしようとして、
左手で逆さ文字を書いたことを。
(左手でえんぴつを持ち、親の手と同じ動きをしようとすれば、逆さになる。)
おかげで、ひらがなの「ち」と「さ」が、ワケが解らなくなったことを。

時代もあって、筆記具とお箸は、右手に直された。
左手で横書きすると、手が汚れやすい。
いろいろと不便だろうと思い、親が直してくれたのだろう。
確かに、右利き用に作られた筆記具のシステムは、左利きでは使いにくい。
でも、ときどき左利きのまま、左手でペンをとり、さらさらと書いている人をみると、少し羨ましくもある。
使いたい方の手を使う方が、自然だから。
お陰で私は今でも字が汚い。(単なる言い訳である。)

学校に入ると、ますますストレスは酷くなってきた。
特に体育の時間。
野球をするのに、左利き用のグローブが無い。
仕方が無いので左手にグローブを嵌め、外野を守るしかなかった。
球が飛んでこないことを祈りつつ。
運悪く、頭上に球が飛んで来たら、とにかくグローブをはめた左手で球をとり、球を右手に持ち替え、グローブを一旦はずしてから球を左手に持ち替え、左手で投げた。
その間に、ランナーはホームインする。
そうならないようにと気が焦り、今度は左手で球を取ってすぐ投げようとし、グローブと球が一緒に宙を舞った。
外野でもこれだから、内野やピッチャーなんて、できるはずがなかった。
これは、意外なことに大学まで続いた。
つまり、大学にさえ、左利き用のグローブが無かった。
だから、私は今でも野球が苦手である。(これは言い訳ではない!)

高校の時、弓道部の友達に、弓を引かせてもらったことがある。
当たり前のように、右手で弓を持ち、左手で弦を引こうとすると、逆だという。
弓道では、左手で弓を持つことに決まっていると。
「道」だから。
言われた通りに構えると、ものすごく違和感があった。
案の定、矢は的を大きく外れた。
こんなの、逆に持たせてくれたら当たるのに。
と言ったら、
いや、的に矢を当てるのが目的ではない。武道だから。と言う。
そりゃそうかもしれないけど。。
でも、ストレスなく構えられて、的に矢が当たった方がやっぱり良いんじゃない? 「道」と言うならこの方が「精神的に落ち着く」し。
と個人的に思った。

もやもやした気分が顔に出ていたのだろう。
その友達が付け加えた。
「実はね、左利きの方が弓を引くには有利なんだよ。利き手が弓を支えて安定するから。」

それは。。。単なる「左利きのために用意された常套慰め句」なんだと思う。
だって、「弓」って一応武器ですよ。
武器を使うのに、一番使いやすい方法で使うでしょう。
そしてそれは、多数派の右利きの人が、右利きが使いやすいように使うでしょう。
それが作法として、型として、そのまま残っているはず。
なんせ、生死がかかっているんだから。
もし、本当に利き手で弓を持つ方が命中率が高まるのなら、右手で弓を持つ作法で残っているはずでしょう。

それが証拠に。。
時は経ち、今度は自分が高専で働くようになった時、
学園祭で、アーチェリー部の学生がアーチェリーを引かせてくれたことがある。
「利き手は、どちらですか?」
まず、尋ねてくれた。
弓道のとの違いに驚いた。
そして、当然の如く「左利き用の弓」を用意してくれた。
右手で弓を持ち、左手で弦を引いた。
矢は一直線に的の中心に吸い込まれた。
景品に、aikoのCDをくれた。

ほらみろ。
やっぱり、自然に構えた方が、良いに決まってるじゃないか。

武器と言えば、銃器の類もそうだ。
もちろん、実物は扱ったことが無いのだが、エアガンやモデルガンの類を試させたもらったことがある。
左利きが構えると、ライフルはボルト(あの、弾を装填するのに「ジャキンッ!」て引くやつ。)のレバーが逆に付いている。
不自然に左手を上からまわしてやっとの思いでボルトを引いて戻す。
狙いを定めて撃つと、薬きょうが顔に向かって飛んできた。
実戦だと、左利きの人はどうなるのだろう?
左利き用のライフルがあるのだろうか?
それとも、「武器に体を合わせる」のだろうか?
まあ、これは使わずに済むように祈るばかりだが。

ギターの類もしかり。
明らかに右利き標準でできている。
左利き用に弦を逆に張れば「左利き用ギター」ができないことは無いのだが、それで覚えてしまうと、
「旅先でロッジの壁にかかっているギターをちょっと手に取って。。」ということが一切できなくなるだろう。
これも、「右利き標準」に合わせるしかない。
もちろん、左利きで右利き用のギターを華麗に演奏するアーティストの方はいくらでもいらっしゃると思う。
努力されたのだろう。
才能もあるのだろう。
が、我々凡人の左利きがちょっと趣味で始めようとか思った場合、右利きでは全く感じないストレスというか壁があるのは紛れもない事実であり、それは少なからずハンディになる。

社会人になる。
通勤する。
駅の自動改札が、毎日のストレス。
きっぷや定期の投入口は右側にしかない。
右手で入れられないことも無いのだが、ストレスだ。
体をひねって、無理やり左手で投入することもある。
少し前に某電鉄会社が
「左利きの方にもやさしい改札機にしました♪」
との宣伝文句で設置した改札機があった。
「お♪ ついに!」
と思って、実物を見て失望した。
左側にも投入口ができたのかと思ったが、
投入口は相変わらず、右のみ。
投入口の角度がほんのわずか、左に傾いているだけだった。
何の助けにもならない。
これは、右利きの人が考えたに違いない。
左利きをディスるのにもほどがある。
これなら、まだ何もしない方がいい。
この、
「ほーら、左利きの人にも配慮しましたよ♪」
という姿勢だけ見せて、実は全然まともに考えていないのがイヤだ。
まるで、どこかの政令指定都市が考えそうなことだ。
案の定、この改札機は1代で姿を消した。
本当に某電鉄が左利きのことを考えてくれているのなら、
次世代はもっと改善されて出て来たはずだ。

職場に着いたら、パソコンが右利き用である。
これは言うに及ばずだろう。

夕方、帰りにスーパーに寄ると、
レジは必ず右利き用。

左利きは、
朝起きてから、夜寝るまで、
連続して細かいストレスを受け続けている。

右利きの人は、
是非、頭の片隅に、この事実を書き留めておいてほしい。
この感覚は、永遠に理解できないであろう。
でも、最初に書いた、「日本人のエクセルストレス」を思い浮かべれば、少しは解って頂けるかもしれない。
エクセルストレスを四六時中、感じ続けているのである。

最後に。
これを読んでくれているのは、右利きばかりとは限らない。
左利きの人もいるはずだ。
左利きのために、
左利きならではの、数少ないメリットも書いておこう。

・腕相撲で、少なくとも左腕なら勝てる可能性が高い。
・指相撲で、少なくとも左手なら勝てる可能性が高い。
・ワルサーP38を撃つ時は、薬きょうが顔側に飛ばない。
・日本車の特にMT車は左利きの方が運転しやすい。
・マウスとテンキーの同時操作がやりやすい。
・(えんぴつを右手に直した場合に限るが)右手でえんぴつ、左手で消しゴムを持ったまま書ける♪(右利きの人に言われるまで気付かなかったが、これは実はとても便利!)
・スケバン刑事になれる。
・麻丘めぐみの歌で喜べる。



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