「画角」を決めるもの

 これまで、5回にわたって露出の話をしてきましたが、今回は「画角」の話をします。
 皆さんは様々な写真を見たことがあると思います。
 人間の目と大体同じような範囲を撮った違和感のない写真もあれば、海に落ちる夕陽を画面一杯に撮ったもの、逆に目の前に広がるビーチを端から端まで全部収めたもの。
 カメラを向けたとき、どの範囲を切り取って写すかを表したのが、「画角」です。本当は角度で表します。望遠レンズだと「画角5度」とかになりますし、広角レンズだと「画角90度」とかになります。
 望遠レンズの場合、景色のうち非常に狭い範囲だけを切り取って写すことになり、広角レンズなら広い範囲を、魚眼レンズになると画角は180度以上。目で見えている範囲全てを写す感じになります。
 でも、「画角何度」って角度で言われても、いまひとつピンとこないでしょう。正式な画角の定義や計算式はひとまず置いておいて、ここではもっと解り易い方法で説明しましょう。

画角を決めるもの

 画角を決めるのは、「レンズの焦点距離」「センサーサイズ」
このふたつだけです。

レンズの焦点距離とは

 カメラのレンズは簡単に言うと1枚の凸レンズと等価です。凸レンズと言えば虫眼鏡(ルーペ)。そう、基本的には虫眼鏡と同じなのです。※
虫眼鏡には固有の「焦点距離」があります。
 太陽の光を虫眼鏡で集めて黒い紙の上に焦点を合わせると、紙が燃え始める。。子供の頃、そんな実験をしたことがあると思います。
 レンズを紙に近づけたり遠ざけたりしていると、ある位置でそれまで丸くてぼやっとしていた紙の上の光の円が、小さな点になります。(そしてその光点のところから紙が燃え始めます)
 この一番小さな点になったときの、レンズと紙の距離、それが「焦点距離」です。
 カメラのレンズも同じで、必ず固有の焦点距離を持っています。レンズ本体やカタログに「f=〇〇㎜」という形で記載されています。(「f=」は省かれている場合もあります)
 この焦点距離が画角を決めます。
焦点距離が長いほど、画角が狭くなる、つまり切り取る範囲が狭くなり、
焦点距離が短いほど、画角が広くなる、すなわち広い範囲が写ります。

センサーサイズとは

 ここで言うセンサーとは、撮像センサーのことです。昔のカメラで言うところのフィルムに相当する素子で、長方形の板状の形です。
このセンサーのサイズが、
小さければ小さいほど、画角は狭くなり、
大きければ大きいほど、画角は広くなります。

「画角デュオ」と画角の関係

 無理やりですが、画角を決める2要素、「焦点距離」「センサーサイズ」を、「画角デュオ」と呼ぶことにします。この画角デュオから画角を求める方法を述べます。
 実は複雑な計算をしなくても、さささっと絵を描くだけで、画角は簡単に求まります。今、話を簡単にするために、とりあえず画角デュオのうち、センサーサイズは固定して考えましょう。いや、とりあえずセンサーでは無く、昔使われていたフィルムサイズで考えましょう。
(なぜわざわざ昔のフィルムを話に引っ張り出してくるのか?その理由は後で解ります。)
 フィルムカメラ全盛期、最もよく使われていたのが「35㎜フィルム」です。名前の示す通り35㎜幅のフィルムです。
 ちなみに、スチルカメラ(静止画を撮るカメラ)では主にこの35㎜フィルムが使われていましたが、動画を撮るフィルムカメラ(シネカメラ)にはもっと細い8㎜幅のフィルムが使われていました。「8ミリ」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。映画を撮るには16㎜幅のフィルム。さらに高画質の映画を撮るにはスチルカメラと同じ35㎜幅のフィルムが使われていました。
 さてこの35㎜フィルムですが、実際フィルム上に写す範囲は、24㎜x36㎜の長方形になります。
普通にカメラを構えたとき、縦が24㎜、横が36㎜の横長です。
「幅が35㎜なのに、どうしてそんな中途半端な数字なの?」と思うかもしれませんが、フィルムには両端(道路で言えば両側の歩道の部分)にフィルムを送るためのギア(スプロケット)をかませるための穴(パフォレーション)があって、その部分(両側5.5㎜ずつ)は使えないから、縦24㎜になります。横はフィルムを送る方向なので何ミリでも自由に設定できますが、縦横比2:3ぐらいが良かろうということで、横36㎜が一般的でした。
 この35㎜フィルムカメラ(以後「35ミリカメラ」と書きます)で、焦点距離がたとえば50㎜のレンズを通して写真を撮ったら、画角はどれほどになるでしょう?
普通写真を撮るとき、長方形の長い方(カメラを構えると横方向)がどこまで写るか気になると思いますので、それを求めてみましょう。
簡単です。
こんな図を描けば、一発でわかります。
フィルムの横幅が図中の青い線。36㎜でしたから、36㎜の長さの青い線を引きます。
そして青い線の真ん中(中点)から、直角に赤い線を引きます。赤い線の長さは「レンズの焦点距離」です。
最後に「青い線」「赤い線」の端っこを通る、黒い線を2本引きます。
この線に挟まれた内側が写真に写ります。

簡単でしょ?
図を見てわかる通り、焦点距離が50㎜だと普通の範囲、200㎜だと範囲が狭く、逆に28㎜ならぐっと範囲が広がります。

このように、同じフィルムでもレンズを変えれば、写る範囲を狭くしたり広くしたりすることができます。
50㎜だと大体人間が見ている(「見えている」ではなく「見ている」、"see"ではなく"watch")範囲ぐらいなので、このあたりの焦点距離のレンズを「標準レンズ」と呼びます。
それに比べて、200㎜は、かなり画角が狭いです。画角が狭いということは、狭い範囲をさっきと同じ大きさのフィルムに拡大して写すことになりますから、これは望遠鏡のような写り方をするレンズ、「望遠レンズ」です。
逆に、28㎜は50㎜に比べるとかなり広い範囲をカバーしますから、「広角レンズ」と言います。
そのうち取り上げますが、一眼レフとかミラーレス一眼というのは、このレンズだけ交換できるようになっていて、カメラ本体にレンズを買い足していけば、いろいろな画角を楽しむことができます。

ズームレンズ

 ズームレンズは、この焦点距離をある程度自由に(しかも連続して、無段階で)変えることのできる、魔法のレンズです。
たとえば、「28-200㎜ズームレンズ」であれば、1本で先ほどの28㎜、50㎜、200㎜と同じ働きをすることができます。一人ならぬ「一本三役」、いやそればかりか、その中間の40㎜や135㎜といった中途半端な焦点距離も自由にとることができます。
 これに対し、それ一本で28㎜とか、200㎜とか、単一の焦点距離しか持たないレンズのことを「単焦点レンズ」と言います。
「ズームレンズ一本で、単焦点レンズ何本分もカバーしてくれるのであれば、ズームレンズさえあればいいじゃないか。単焦点レンズなんて要らないんじゃない?」
と、思われるかもしれませんが、そうでもありません。
「万能」とうたった物には、必ず裏があります。何かメリットがあれば、その裏に必ずデメリットが潜んでいます。
では、ズームレンズのデメリットは何かといえば、一般的に単焦点レンズに比べて、性能が落ちます。
レンズの性能は一言では言えません。いろんな要素があります。解像度とか各種の収差とか。「魔法のレンズ」にするために、必ずこのうち何かを犠牲にしています。
 当たり前と言うか、一番解り易いのは「重量と大きさ」です。
たとえば、28-200㎜のズームレンズは、28㎜、50㎜、200㎜の単焦点レンズを3本持っていくことを思えば軽くて嵩張りませんが、
「今日は撮影の目的からして絶対広角28㎜しか使わない」
と解っていれば、ズームレンズを持っていくより、28㎜の単焦点レンズ1本を持って行った方が、軽くて、小さいです。おまけに写りも良いです。
 ただ、そうは言っても、やはりズームレンズは圧倒的に便利で、どんな被写体に出くわすかわからない旅行などではとても重宝します。
しかも近年のズームレンズは驚くほど性能が上がっています。
これにはいろいろ理由があります。たとえば設計に使うコンピューターの性能が向上したこととか、新素材の出現。
それに、これはデジタルカメラ時代ならではの考え方ですが、「デジタルの後処理で修正できる収差を犠牲にして、他の性能を上げる」という設計手法が高性能に貢献している面もあります。
「収差」というのは、レンズを作ったときに出てくる「本来出て欲しくない」特性です。色収差、コマ収差、非点収差。。様々な収差があるのですが、このうち「歪曲収差」は、昔は嫌われました。
歪曲収差の酷いレンズで、四角い物、たとえば窓を真正面から撮ると、出来上がった写真に写った窓は、樽のような形に膨れて写ったり(樽型収差)、逆に四隅が外に広がったように写ったり(糸巻収差)します。
他の収差は絞りを絞ることで改善されることが多いですが、歪曲収差は何をしても軽減されません。だから、昔は歪曲収差が極力出ないように設計することが多かったのです。
ところが、デジタルカメラになると、歪曲収差があっても写真に写った後でデジタル的に補正することができます。
「だったら、歪曲収差は気にせず、それを犠牲にしてその分他の収差を改善しよう。」
そういう設計が増えてきました。

少し長くなってしまいましたので、今回はここまでとします。
「画角デュオ」のもうひとつの要素、「センサーサイズ」については、また次回に。

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