追悼 松本零士先生

あの松本零士先生がお亡くなりになった。
結局、一度もお会いしたことは無い。
でも、まるで小学校や中学校時代の旧友と同じように、何十年も共に生きてきた感じがするのだ。
好きだった歌手や芸能人でも、こんな感覚は無かった。
それだけに、ショックだった。
ついにこの日が来たか、と。

松本零士の作品と初めて意識して読んだのは、銀河鉄道999だろう。
作品に出てくる女性(特にメーテル)の神々しいまでの美しさ、それに比してお世辞にも美少年とは言えない主人公の鉄郎。
でもこのギャップに違和感が無いのが不思議だった。
(いや、不思議でも何でもなく、鉄郎はむちゃくちゃカッコいいのだ。実は。)
そして、「カッコいい」と言えば、メカのカッコよさ。
「なんでこんなところにメーターが付いてるんだよ。」
なんてツッコミはどうでもよくなるほど、痺れた。
999号自体は(機関車の中身を除いて)何てことは無いのだが、たまに出てくる他の路線の列車が秀逸だった。
たとえば、どこかの星の通勤列車。TV版で言うところの111号。
機関車の前面がオーバーハングというか、TGVなどと真逆の傾斜。しかも、コクピットが戦闘機のキャノピーの様な形で斬新。
例によって前面にはメーター類が(外側に向けて)山ほど付いていたが、「誰が何のために見るんだ?」なんて野暮なことを言ってはいけない。(とにかくカッコいいから許す。)
地上設備もだ。
駅のホームのデザイン、天に向かって駆け上がっていくカタパルトレール(じゃないんだけどな、他に呼びようが無い)の橋げた(と書くと身も蓋もない?)とか先端部分まで、いちいちカッコいい。
無名の飛行機やヘリコプター、車の類も全部カッコいい。
「この人は天才か?」
そう思った。

読み進めるにつれ、毎回語られる深いテーマが気になりだす。
怒るべき時に怒らないことが当たり前の星。
少々荒っぽいが、未来に向かってこれから躍進してゆく希望の星。
ナマの戦闘を観光客の見世物にしている星。
明らかにおかしい法律を何の疑問も持たずにただ守り続けている星。
なんだか、今の世の中を予言していたのではないかと思うような作品が多い。
そういえば、「キャプテンハーロック」の冒頭でも、
「政府は反乱を恐れ、各家庭に催眠音波の入った映像を送り込んだ。人々は無気力に。。」
なんてくだりがあったが、大丈夫だろうな?

999にのめり込んでから、遅まきながら色々な作品を読んだ。
セクサロイド、男おいどん、ワダチ、大純情くん、ダイバーゼロ。。etc

当時でさえ、読んでいて恐ろしくなった。
特に「大純情くん」などは。
冴えない所謂下層階級の男一匹。
男おいどんの世界からスタートするが、やがてとんでもないことに。。

今、思い出すともっと怖くなる。
もう一度読む勇気も無い。
着実に、世界がそっちの方向に進んでいる気がするからだ。
周囲の事などお構いなしに、ニョキニョキ増殖するタワーマンション。
その次に来るのは何だろう?

「予言の書」を残したのかもしれない偉人。
松本零士先生。

惜しい人を亡くしたものである。




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