「露出御三家」を使いこなせ!
「露出御三家」(ろしゅつごさんけ)とは私が勝手に作った言葉で、
「絞り」「シャッター速度」「感度」の3つを表します。
さて、今回はいよいよこの「御三家」を使いこなす方法に入っていきましょう♪
(なんだか、今日は言葉遣いが丁寧になっていますね。)
前回、書いたように、「絞り」も「シャッター速度」も「感度」も、「1段階」ずつ変化させることができます。
3つのうち、他の2つを動かさないようにして、1つだけを「1段階」ずらせば、写真の仕上がりは、それにつれて明るくなったり、暗くなったりします。
たとえば。。
1.シャッター速度だけ変えてみる
①まず、
「感度」をISO100、「絞り」をf8、「シャッター速度」を1/500秒にして、1枚写真を撮ります。
これで、ちょうど良い明るさ(適正露出)の写真が撮れたとします。
②次に、
感度ISO100、絞りf8のまま、「シャッター速度」だけを1/1000秒に変えて、もう1枚同じ写真を撮ったとします。
シャッター速度だけが、「1段階」上がったので、今度はさっきより「1段階暗め」の写真になります。
③当然、
感度ISO100、絞りf8のまま、「シャッター速度」だけを1/250秒に変えて撮れば、シャッター速度が一番最初の①の時と比べて「1段階」下がったので、最初の写真より「1段階明るめ」の写真になります。
2.「絞り」だけを変えてみる
じゃあ今度は、「感度」と「シャッター速度」を固定して、「絞り」だけを変えてみましょう。
①まず最初は、さっきの①と全く同じように撮ります。
「感度」をISO100、「シャッター速度」を1/500秒、「絞り」をf8にして、1枚。カシャッ!。
さっきと同じ、ちょうど良い明るさの写真が撮れるはずです。
②次に、
感度ISO100、シャッター速度1/500秒のまま、「絞り」だけをf11に変えて、パシャッ!
「絞り」だけを「1段階」絞ったので、さっきより「1段階暗め」の写真になります。
③逆もまた真。
感度ISO100、シャッター速度1/500秒のまま、「絞り」をf5.6にセットして、パシャコン!
①の時に比べ、「絞り」を「1段階」開いたことになるので、①のときより「1段階明るめ」の写真が出来上がります。
3.合わせるとどうなるのさ?
上の話の抜粋です。
「シャッター速度」を「1段階」上げると、「1段階暗め」の写真になる。
「絞り」を「1段階」絞ると、「1段階暗め」の写真になる。
でした。
とても大事なことがあります。
ここで私は、どちらも同じ「1段階暗め」という言葉を使っています。
シャッター速度を「1段階」変えても、絞りを「1段階」変えても、結果は同じ「1段階暗め」。
つまり、シャッター速度の「1段階」と、絞りの「1段階」は、(明るさだけに限って言えば)全く同じ意味、「等価」なのです。
だったら?
実験してみましょう。
①まず、
ISO100、1/500秒、f8で、1枚目。カシャッ!
うん、丁度良い明るさの写真が撮れたぞ。(さっきと同じだもん。)
②次に、
ISO100、1/1000秒、f11で、2枚目。バシャッ!
さあ、どうなると思います?
今度は、①と比べて、
「シャッター速度」が「1段階」上がって、
「絞り」も「1段階」絞られました。
だから
「シャッター速度」の分、「1段階暗め」になる上、さらに、
「絞り」の分、「1段階暗め」が重なる。
「1段階暗め」+「1段階暗め」=「2段階暗め」
①の写真に比べて、「2段階暗め」の写真が出来上がります。
早い話が、「かなり暗め」の写真になるのです。
③
では今度は。。
ISO100、1/1000秒、f5.6
にセット。
電影クロスゲージオープン。バシャコンっ!
撮りました。
果たしてどんな写真になるでしょうか?
①に比べて、
シャッター速度は「1段階」アップだから、「1段階暗め」に。
でも絞りは「1段階」開くから、「1段階明るめ」に。
「1段階暗め」+「1段階明るめ」=ゼロ。コスモゼロ。じゃなくて、
プラスマイナスゼロ。
相殺されます。
結局、①と同じ明るさの写真が撮れます!
これは、たとえば、
「2段階暗め」+「2段階明るめ」でも同じ。
やはり、①と同じ明るさになります。
だから、
ISO100、1/4000秒、f2.8
ISO100、1/2000秒、f4
ISO100、1/1000秒、f5.6
ISO100、1/500秒、f8
ISO100、1/250秒、f11
ISO100、1/125秒、f16
ISO100、1/60秒、f22
この、どの組み合わせで撮っても、全て同じ明るさの写真になります!
同じものを撮るのに、これだけたくさんの組み合わせが選べます。
どの組み合わせにしても、明るさは同じ。
では、何が変わってくるのでしょう?
何が「変えられる」のでしょう?
いよいよ、核心です。
4.シャッター速度が変わると
「シャッター速度」とは何だったでしょう?
「シャッター」という雨戸のようなものが、フィルム又はセンサーの前にあり、普段は光が入らないように固く閉じられている。
写真を撮る瞬間、この雨戸が開き、たとえば1/500秒(0.002秒)経過した後に、また閉じる。
この「雨戸が開いている時間」がシャッター速度。
この場合なら1/500秒になります。
この時間が短い場合、「シャッター速度が速い」とか「高速シャッター」、
長い場合「シャッター速度が遅い」とか「低速シャッター」
という言い方をします。
容易に想像できると思いますが、
シャッター速度が速いと、激しく動き回るものでも、ピタッと止めて撮ることができます。
1/4000秒、1/8000秒といった高速シャッターを使えば、飛び散る水しぶきや、ヘリコプターのローターでもピタリと止まります。
逆に遅いと、ブレます。
5.絞りが変わると
では、絞りはどうでしょうか?
光の量を変える以外の役割が、何かあるのでしょうか?
大アリです。(壁に大アリ、障子に。。もういいって)
仕組みは後日また説明するとして、とりあえず、ここでは結論だけを書きます。
絞りを絞ると、フォーカス(ピント)の合う範囲(被写界深度という)が拡がるのです。
手前から奥まで、広範囲にフォーカスが合うようになるのです!
たとえば、
富士山をバックに記念写真を撮ることを考えてみてください。
人物と富士山が両方入るようにして撮りますが、このとき、人物にフォーカスを合わせると、背景の富士山がボケます。
富士山にフォーカスを合わせると、今度は人物がボケる。
困ったな。。
こんな時、絞りを思いっきり絞ってやると、フォーカスの合う範囲が広がり、どちらもクッキリ写すことができます。
「へー!絞りにそんな効果があるのか。不思議!」
と思いましたか?
実は、知らず知らずのうちに日常体験していることなのです。
人によっては、積極的に「絞りの効果」を利用していることも。
近視の人が眼鏡なしで遠くを見ようとするとき、無意識に目を細めることがあるでしょう?
そうすると、ぼやけて見えないものが少し見えるようになるでしょう?
あれはまぶたを「絞り」として利用しているのです。
近視と言うのは、近くの物にはフォーカスが合うけど、遠くの物には合わないという症状ですが、まぶたを「絞る」と、被写界深度が拡がる、つまりフォーカスの合う範囲が広がるので、遠くのものも少し見やすくなるのです。
逆に遠視の人が手元の新聞の文字を見るときに目を細めるのも全く同じ。
また、
「日中、明るいところでは手元が見えるのに、夜になるとぼやけて良く見えない。」
歳を重ねれば誰でも体験することですが、これも実は「絞り」の効果。
人間の目には、カメラと同じ「絞り」がついています。「虹彩」と言う組織です。誰かの(知ってる人にしてくださいね)目の中をじーっと観察してみると、黒目の中にさらにもっと黒い小さな丸い穴が見えます。瞳(ひとみ)です。あのひとみは、実はカメラで言うところの「絞り」の穴で、ひとみの周囲にある黒目の部分が「虹彩」と呼ばれる「絞り機構」です。
人間の目の「絞り」は良くできていて、明るいと勝手に絞られて強い光が目に入るのを防ぎ、暗いところでは、わずかな光でも逃さないようにほぼ黒目いっぱいまで大きく開きます。生きている限り、本人の意識と関係なく「自動的に」動きます。
(人の生死を判別するのに、目にライトで光を当てて観察するのも、この虹彩の動きを見ているのです。生きていれば、たとえ意識を失っていても虹彩が光に応じて自動的に動くからです。)
暗いところでは絞りが開いているので、手元にフォーカスが合わなくても、明るいところでは(自分でも知らないうちに)勝手に絞りが絞られ、それに伴って、「フォーカスの合う範囲」すなわち被写界深度が拡がって、夜は見えなかったところまでフォーカスが合うようになるのです。
このように、「絞り」と「シャッター速度」には、写真を撮る上で全く異なる役目があります。まとめると、
「シャッター速度」を速くすると、動き回るものでも止めて写せる。
「絞り」を絞ると、手前から遠くまでフォーカスが合うようになる。
6.あれ?感度は?
「さっきからシャッター速度と絞りの事ばかり言ってるけど、感度は?」
もちろん、御三家の残り1つ、「感度」も「絞り」や「シャッター速度」同様、1段階のもつ意味は「等価」です。
だから、たとえば、
ISO100、1/500秒、f8 で撮った写真と
ISO200、1/1000秒、f8 で撮った写真は
同じ明るさに仕上がります。
では、感度を変えるとどうなるか?
感度を変える意味はあるのでしょうか?
実は、「感度」を意図的、積極的に変えるということは、あまりしません。
「他の条件を満たすために、仕方なく感度を変える。」
という使い方の方が多いです。
どういうことか、例を挙げて説明しましょう。
富士山をバックに、遊んでいる子供を撮ります。
ISO100、1/500秒、f8
で撮ったら、ちょうど良い明るさに写ったとしましょう。(適正露出)
でも、子供が走り回るので、ブレてしまいました。
その上、子供にフォーカスを合わせたので、後ろの富士山がピンボケです。
どうしたらいいでしょうか?
子供の動きを止めるには?
そう、シャッター速度を上げれば(速くすれば)良いのです。
2段上げて、1/2000秒にしましょう。
次はフォーカスです。
子供にも、背景の富士山にも、両方にフォーカスが合うようにするには?
そうです。絞りを絞れば良いのです。
2段絞って、f16にしましょう。
ということは、
ISO100、1/2000秒、f16 ですね。
これで、もう1枚。パシャ!
さて、今度は上手く撮れたでしょうか?
ダメです。
最初に撮った写真(適正露出)より、シャッター速度を2段速くしたので、明るさは「2段階暗く」なります。
さらに絞りも2段絞ったので、明るさはさらに「2段階暗く」なります。
「2段階暗く」+「2段階暗く」=「4段階暗く」 なります。
写真は、見事に真っ暗けになります。
困りました。
もちろん、シャッター速度を2段階速くしても、絞りを2段階開けば、適正露出になります。でも、そんなことをしたら、動きは止まりますが、絞りを最初より開くので、フォーカスの合う範囲はもっと狭くなります。
だからといって、絞りを2段階絞って、シャッター速度を2段階おとせば、フォーカスの合う範囲は広がりますが、シャッター速度が落ちるからもっとブレブレ。。
こちらを立てれば、あちらが立たず。。(トレードオフの関係ですね。)
こんな時こそ、忘れ去られていた「感度調整」を使うのです。
シャッター速度も速くしたいし、絞りも絞りたいんでしょ?
1/2000秒、f16 で撮りたいんでしょ?
でも、そのままだと、4段階暗くなっちゃうんでしょ?
だったら!
感度で4段階稼げば良いのです。4段階敏感(高感度)にしちゃえばいいんです♪
感度ISO100から4段階なので、
ISO100から 200、400、800、1600 と。4段階アップ!
ISO1600、1/2000秒、f16 パシャ!
これで、ブレてなくて、しかも手前の子供から遥か遠くの富士山まで全部フォーカスが合っていて、しかも適正露出の写真が撮れました♪
感度調整は、このように補助的に、「困った時の神頼み」的に使うことが多いです。
しかし、何だか話がウマすぎるような気がしませんか?
「感度4段階アップ♪」
なんて、気軽に言ってるけど、何か弊害があるんじゃ??
はい。その猜疑心、大切です。(詐欺に引っ掛からないためにも。)
実は、感度がアップすると、良くないことが起こります。
ノイズが増えるのです。
解りやすく言うと、感度を上げるにつれ、写真がザラザラしてきます。世の中に上手い話はありません。必ず、どこかで埋め合わせがきます。
なので、「感度を意図的に上げる」ということは、あまりしません。
上の例のように、「シャッター速度を上げて、しかも絞りも絞りたい。」時とか、「光量が足りない夜に(本来であればシャッター速度を落とさないと「適正露出」にならないのだが)無理やり高速シャッターを切りたい」時なんかに、仕方なく(最後の手段として)感度を上げる。。という使い方が多いです。
今回のキーワード:「被写界深度」
補足:
今回のトップ写真は前回の写真(フィルムカメラOM-2N)の一部を拡大したものです。
写真の下の黒い部分はフォーカスリングと言って、フォーカスを(手動で)合わせるためのリングです。数字が書いてありますが、これはフォーカスを合わせている位置の距離を表しています。赤い目盛りが、3と∞(無限遠)の間にありますから、今、5mぐらいにフォーカスが合っている状態でしょう。
ところで、詳しく見ると、赤い目盛りの横に何やら意味ありげな黒い線が数本と、どこかで見たような数字が並んでいませんか?
5.6、11、22
あ!これって? そう、絞りのf値です。
f5.6、f11、f22
を意味します。
でも、なぜフォーカスリングの目盛りの横に?
実は、これこそが「被写界深度」目盛りです。
この目盛りを見れば、絞りをどれだけ絞ると、フォーカスがどこからどこまで(同時に)合うようになるのか? が解るようになっているのです。
たとえば、この写真では、写真向かって右、f22の線が大体フォーカスリングの「3」のあたりを差しています。
左側にもf22の線がありますが、こちらは∞を超えています。
左側、右側、2本の「f22」の線に挟まれた範囲が、被写界深度、つまり「f22に絞った時に、フォーカスの合う範囲」を示しているのです。
このレンズでフォーカスリングがこの位置にあるときに絞りをf22にセットして写真を撮ると、カメラの前3mの距離にいる子供から、∞(はるか遠く)にある富士山まで、しっかりフォーカスが合いますよ。と言っているのです。
f11、f5.6 と数字が小さくなるにつれ、線が示している範囲が狭くなっているのがわかると思います。
絞りを開いていくと、このように
「フォーカスの合う範囲が狭くなる」
のです。
私は、嘘をついてなかったでしょ?
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