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独白#2 憧憬の声

シェリル・クロウを聞きながら作業をする夜中に思うのは
小説の紙とインクの匂い
近所の犬の遠吠え
プライバシーの得難い狭い部屋
遠くに行って幸せになるって漠然と考えていたこと

好きな人はいつまで経っても記憶に引っかからないし
受験戦争は推薦で案外たやすく抜けられそうなこと
団体行動が苦手なくせに「安全だから」で申し込んだ女子寮のパンフ
希望の船出というより必死の脱出だった小娘の冒険譚で
そういうものの類は大抵教訓が付いてくるが未だ終わりは見えていない

小さい頃は
小さな声で歌ってた
音楽の何かはほとんど知らなかったけど
天気のいい風の中で歌うのが好きで
野に咲く花が観客で
太陽が照明で雲が演出
そんな世界で歌っていた

音楽を教える教師に絵も褒められた
私のスケッチは毎月のように街に飾られ
何かの賞も取ることがあった
次第に欲が出て絵描きを夢見て声を潜める
本当はいつかこの声を見出されないか期待したりして

声を失くした時 声を出せと煽られた
歌手を目指した子に叱られて
初めて機械を通した自分の声を聞く
無駄に消耗する全身と口
1曲歌うので既にお腹が筋肉痛
それでも「歌え 声を出せ」と叱られて
彼女が私の声を見出した

夢が破れても
あなたを手放しても
生きる気力を失くしても
私には言葉を補完する絵を描くことと
この声で気持ちを伝えることができる

そうしてもがいていたら
あなたを見つけて
夢につながって
生きる力が湧いて
あとは何をしたくなるのだろう

明け方の空から光る粒が去ってゆく
さぁ 眠りに就かなきゃ

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