偏質的俳句鑑賞-第七十七回 鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ-林田紀音夫『風蝕』

これらの作品の周りには自殺に関する句が散りばめられている。現代人のよく持つ自殺に対する感覚を表している。
遺書というものは基本的には死後に人に宛てて書かれるものだから長く残っていてほしいものだろう。
しかし、この句の主人公は「みんな忘れやすいだろうから」と鉛筆で遺書を書く。
鉛筆はボールペンとか万年筆とかと違って消えやすいし、消しゴムで消える。
そういう時間的にも恣意的にも消えやすい遺書をしたためる。
それは自分のことを早く忘れて幸せになってほしいからだと言っているような気がしてならない。
自分は頽廃的な悲観的な歌とかがあまり好きではないけれど、ここまで切実に詩に昇華されると物語として完成されているともはや言うことはなく感動した。
まぁあくまでも物語としてであっての話だけれど。
ちなみにこの句は無季だけれど季語の入る余地がないから当然かもしれない。
それだけです。次回も良ければ読んでください。

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