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句集を読む:『泥天使』

『泥天使』 照井翠(てるいみどり) 2021コールサック社
著者は昭和37年花巻市生まれ。 「暖響」「草笛」同人。
本書は著者の第6句集。全408句。

[章立て]
Ⅰ 泥天使
Ⅱ 龍の髭
Ⅲ 雪沙漠
Ⅳ 巴里祭
Ⅴ 群青列車
Ⅵ 縄文ヴィーナス
Ⅶ 蟬氷
Ⅷ 滅びの春

前作『龍宮』から8年、「震災詠」、「常の句」、さらに最終章にはコロナ禍を読んだ句を収録したとのこと。

戦災も震災も人ひとりにす
この無季の句は普遍的な衝撃句。「戦災」は(句集の出版年から考えれば)ロシアによるウクライナ侵攻ではないことは明らかだが、この十七音だけなら2023年時点の世界状況を憂いているとも解釈できてしまう。「震災」は「東日本大震災」だろうが、読み手によっては他の震災を想像するかもしれない。天災も人災も大切な人を奪っていくという点は変わらない。

[好きな句10句]
花吹雪花魁のごと霊柩車
付け替へし校章の艶更衣
泥染みの形見の浴衣風が着る
ほうたるの破線のいのち交はりぬ
草茂るずつと絶望してゐろと
浮ぶたび見知らぬ町や鳰
西瓜食ふ種選る力なき父と
千年も要さぬ風化春の海
戦災も震災も人ひとりにす
蜩や自粛の果の弱法師(よろぼふし)

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