視聴者投稿実話怪談『びっくりするほどユートピアで撃退された幽霊』

これは、私の怪談を扱う配信に、視聴者の方より投稿されたお話です。





もう10年以上前になります。昔、日本で大学生をしていた頃の話です。
当時私はちょっとした心霊スポットに巡るのが趣味で、そういう趣味の仲間たちと幽霊が出るとか神隠しに会うとかそういうスポットに行っては冷やかしたりレポートを書いたりあれこれ趣味の範囲で楽しんでいました。

大抵の場合は酒の肴にもならない他愛のないあれこれで終わるが、たまに”あたり”を引くことがあった。そういう目にあった時の話です。

その日、私は神奈川県、厚木市のトンネルを訪れていた。そこは廃キャンプ場に通じる明かり一つないトンネルで、昔事故が起きたとか、近くの小屋で女性が拉致されて殺されたなどとそれらしい噂が幾つもある場所でした。

もちろん、実際の心霊スポットはここよりもさらに先にあります。トンネルを抜けると2000年代初頭に廃業したキャンプ場跡があって、そこでは黒い影を見た、神隠しに遭う、物の怪がでると3段構えのヤバいスポットでした。当時はお化けトンネルで雰囲気を出して楽しんだ後に物の怪に当たってこようと車二台、10人ほどでワイワイと雰囲気を楽しむ肝試しの感覚で遊びに行きました。

時間にして大体18時から19時ごろだったと思います。トンネルには車で入り込めないので近くの道路に車を止めて、延々と続く鬱蒼とした道を蚊に刺されながら進んでいきました。元々目当ての場所はハイキングコースのど真ん中にある歩行者用のトンネルで、夜に歩くことは想定されていないその場所は明かりもなくただた真っ暗なトンネルが続いていて、まるで別世界につながる門かなにかのような異様な雰囲気を醸し出していました。幽霊が出るかどうかはともかく、一緒に来ていた賑やかしの女子大生を脅かすには十分な舞台装置でした。

自分たちの騒ぐ声とかすかに聞こえる蟲の羽音くらいしか物音がない隔絶された空間の中、私は仲間たちとトンネルに入っていき……ものの数分で気分が悪くなり車に戻ることになりました。

私は知り合いのオカルト仲間(珍しい事に彼らは英国人のコンビだった)の二人に連れられてトボトボと引き返すことになりました。そのままキャンプ場に向かったのは7人。私は青春しやがって、くそ、来る前に飲みすぎた・・・・・などと愚痴をこぼしながら車に戻り、ミネラルウォーターを煽りながら車の助手席で安静にしていました。

残りの二人は近くに止めてあるRVで何やら飲みなおしているようで、時折光る懐中電灯の明かりに乾杯する影が映ってそれがまた気分を悪くして最悪の気分だったのをよく覚えています。

事態が動き始めたのはそれからしばらくしてです。窓に頭を持たれかけて”うつらうつら”と眠気と戦っていると何処からともなくノイズが聞こえてきた。車のエンジンはかかっていないのに、カーステレオからサーっとホワイトノイズが小さく聞こえたのを覚えている。

あー、これは当たりを引いたかな?当時はオカルトにかぶれていたのでそんなことを思って……それでゆっくりと顔を上げると車の周りに何かがいた。

サアッと血の気が引いたのを感じました。近くの街灯に照らされてそこに立っていたのは黒い、いや……本当に黒かったのかは分からないですが、少なくともはっきりと姿が認識できない影かなにかの群れだった……と思う。

少なくとも私にはそう見えていた、見えているのに見えていない何かそういうものが車の周りを囲むようにして何体も何体も蠢いていた。多分ですが、それが何かを理解してしまったら私は今ここにいなかったでしょう。

私はとりあえず寝たふりをした。一番厄介なのは認識していると悟られる事です。

経験上、そう認識していた。少なくとも追い払える武器も、助けを呼ぶ術もなにもなかったので、気取られずにそれが過ぎ去るまで耐えるのが得策と考えたのです。しかしこれが良くなかった。

視界を下に落とす刹那、見えるはずがないバックミラー越しに、車の後部座席に誰かがいるのを見た気がした。そして、そう認識したとたんに車の後ろでギシっと音がした。

私は必死に寝たふりをしてそれが消え去るのを待っていたが現実は非情だった。
気取られてはいないつもりだったが、それがゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと近づいてくるのが分かった。緩慢な動きで、それこそ焦らす様に私の後ろに迫っているのが直感で分かった。

私は耐える事しかできず、ただただ目をつむってそれが何かも知らないふりをして耐えました。ホワイトノイズが延々と耳に残り、残響で自分も震えるような錯覚を覚えるほど長い時間耐えた気がします。

そして、それは突然反転したのです。急な物音が聞こえ、その場に似合わない狂気の叫びがすべてを支配しました。

『「ビックリするほどユートピア!」』

もう一台の車から飛び出てきた二つの影は渾身の力でそう叫んだ。

私はつい顔を上げてしまった。つい、顔を上げてしまったのだ。

そして人生で5本指に入る恐怖の光景を目にした。

服も、肌着も、靴も、靴下もすべてを解き放った二人組の英国人がすべてを通り抜けた狂乱の形相で、半分を炉目をむき、臀部をパチン、パチンと叩きながら叫びまくっていたんだ。

”びっくりするほどユートピア!” ”びっくりするほどユートピア!”

それはもう恐ろしい光景だった。飛び跳ねる全裸の二人組が車の周りを狂った調子で暴れまわるのだ、すべての心霊現象よりも人間が怖いと確信した瞬間だった。

余りの恐怖に全身を凍り付かせながら数分間、その地獄の光景を見続けた。そして、ふと我に返ると車から飛び出て、彼らに思いっきりビンタをしていた。

そして、思いっきり彼らをゆすっていた。その頃には、心霊現象のしの字も忘れていた。彼らの顔を数回はたくと、二人組はまるでつきものが落ちたみたいにその場にへたり込んだ。その頃には、奇妙な影も、後ろから迫る何かも、カーステレオから聞こえるノイズも消え去って、ただただ静寂が戻ってきていた。

彼らはいそいそと服を着こんで、私をRVに招き入れた。私は別の意味で恐怖を隠し切れなかったが彼らとRVに乗り込んで他の仲間が来るまでバドワイザーとジャーキーで時を忘れる事にしました。

結局のところ、それから十分もしないうちにキャンプ場を見に行った奴らも戻ってきて、我々はいそいそと山中のスポットから走り去ることになった。

廃キャンプ場に行った奴らは妙な視線を感じたとか、公衆便所後で蟲の群れを見たとか色々と言っていたが、結局のところはそれらしい現象はあまり起きず、適当に雰囲気を楽しんで帰ってきただけだった。(正確にはカップルが一組できていた、滅びればいいと思う)

私は二人の英国人と見たことを震えながら喋り(びっくりするほどユートピアを隠しきったのだ、褒め称えてほしい)本厚木の駅の近くのカラオケで朝まで歌って、飲んで恐怖を紛らわせて過ごすことになった。

結局のところ、あの山中で現れた影が何だったか、今に至るまでその正体は分からずじまいです。ただ、一つだけ覚えている。最後、アパートまで車で送ってもらい、去り行く際に車の底面に見えた影の中の白い目。

あのトンネルにいるのか、あの廃キャンプ場にいる何かがあふれてきたのかはわかりません。しかし、あのあたりで起きた神隠しの噂のうち、いくつかは……もしかしたら本当の事だったりするのかもしれません。

もしも、もしもその存在に囲まれて引き込まれそうになったら、次は私が躍ることになるのではと頭をよぎることがあります。びっくりするほどユートピアを……そうならないことを、切に願います、


ペンネーム:karkaroff
2023/8/26配信 https://youtube.com/live/AfMdhObwoTw?feature=share
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