視聴者投稿実話怪談『収容所跡にて』

これは、私の怪談を扱う配信に、視聴者の方より投稿されたお話です。





元々はSCPにフィクションとして投稿していた実話になります。昔の話ですが楽しんでいただければ幸いです。

私がまだロシアで働いていたころの話です。
当時、私は某半国営企業に勤めていて、ソビエト崩壊時のごたごたで公式記録から消え去った施設や政府の資産を探しだして国に再登録したり、登録された施設がきちんと管理されているか監査したりしていました。

といっても、まだその頃は新人で、諸々の研修を終えて初めてのフィールドワークの仕事でした。中央シベリアで私の上司のKと愚かで愛すべきバカの同僚Nと3泊5日のちょっとした出張旅行といった感じで、昔の収容所跡が提出された書類と同じ状態を確認するのが目的の簡単なもの……と聞いていました。

ほとんど初めての仕事で、取り壊し予定の古い捕虜収容所跡を訪れると聞いてちょっとわくわくしていたのは否定しません。心霊スポットに遊びに行く感覚でした。

記憶が正しければ、中央シベリアの春、泥と木にあふれた無駄に広いシベリア、収容所跡は郊外の森の中にあって誰も逃げ出せないし、逃げ出したとしても列車の駅と小さな村くらいしかない辺境の地で、小さい空港にセスナ機で降りて行ったとき、冒険よりも先にあまりの何もなさにげっそりしたのを覚えています。

森の中の収容所跡には施設の老齢の管理人が一人駐在しており、彼の案内でいまだ入ることができる何カ所かの建物と、既に瓦礫となったいくつかの建物を見て回り書類に不都合がないか見て回りました。初日、到着して早々、上司は空港に用意されていた社用車で寝ており
Nと私はちょっとした探検を楽しんでいました。

さぼる上司をしり目にNと私は視察に来た軍の将校がごとく扱いで施設の案内を受け、それはもう冒険を楽しみました。コンクリートでできた収容所の殆どは二次大戦から冷戦時代にかけて建築されたもので、ほこりっぽい場所も多かったが状態自体は書類と比べても何ら異常はなく、当時の雰囲気や歴史を楽しむには十分なひとときでした。

問題が起きたのは二日目の事です。上司が書類作成を請け負ってくれたので我々は崩れかけた木造の建物や既に崩れたバラックの調査を始めました。その区域には瓦礫の山が広がっており、ほとんどは廃墟どころか嵐が過ぎ去ったかのようなひどいありさまで、ただ一つの建物を除いてみるべきものはほとんどありませんでした。

その建物はコンクリートでできた無駄に頑丈そうな建物で、管理人が言うには武器と燃料が保管されていて、地上に武器、地下には燃料があったそうです。今は中が劣化しているので鎖と鍵で封鎖してあるというのだがその封鎖の仕方が異常でした。

そのあまりの様子にNと私はお互いに顔を見合わせました。開かずの間なぞ生ぬるい厳重な封印だったのです。8つの頑丈な錠前、何重にかけられた錆の浮き出た鎖、窓はなく、通風孔すらあかないように固定されている始末だ……それは古代の化け物を封印するような、そんな雰囲気を醸し出していた。

私とNは管理人をしていた男に本当にここは武器庫なのか?
なにか別のものが封印してあるんじゃないか?と好奇心をむき出しに尋ねた。

管理人は初老を超えた白髪の男性だったのだが、皺の寄った眉間をさらにしわくちゃにしながら首を振り、しかし何も語らなかったのです。

その建物は書類の記載にも同じように記載されており、建物の劣化につき安全のため封鎖という言い分も間違ってなかった。本来はそれ以上調べる必要はなかったのだが、私とNは好奇心に突き動かされるように管理人に建物について執拗に質問を続けました。

管理人はだんだんと苛立ちはじめ、怒りをあらわにしてきた。質問を続けると、彼はぶちぎれながら建物について早口に、喚くようにいい、鍵束をなげつけてきた。

「あそこにはナニカがいるんだ、秘密警察よりも、KGBよりも恐ろしい何かがうごめいているんだ!」

「中の奴らは70年前から増え続けてる、俺の知らない言葉で夜な夜な何かを訴えかけてるんだ!知りたきゃ勝手に中に入って殺されちまえ!」

そう言うって管理人はもう知らんとばかりにそこから立ち去ってしまった。私も逃げ去りたかったがそういう訳にも行かなかった。あのNがそれはもう満面の笑みで鍵を開け始めたのからだ。

Nが子供みたいな輝く瞳であの多重に絡み合った鎖を一つずつ開けて行きながら

「車に猛獣用に積んであるショットガンと、その横に俺の名前の入った弾薬箱があるから持ってきてくれ、その間に鍵を外しとく」

なんて言い出したものだから奴の武器弾薬を運んでくる羽目になった。私としては不本意だったのですが、車からショットガンとNの弾薬を持ってきた時にはもう後に引けなくなっていた。

正確には躊躇したが、そのワクワクオーラともいうべき何かにこらえきれず銃と弾薬をとってくる羽目になったというのが正直なところだったりする。

心霊スポットにショットガンを持った相棒と乗り込むなんて言う状況は映画でもそうそうお目にかかれない経験でしたし、内心でまあ何もないだろうと油断もしていました。

Nは”はしゃぎ”ながら銃を受け取ると青い散弾を込めながら私に言いました……

「よう相棒、これは岩塩を詰めた弾を聖別したものでさ、ゴーストにぶち込めばクレムリンよりひどい場所に葬れるらしい、一回やってみたかったんだ」

このとき確信した、同僚は真性の馬鹿だ。

ただ、それを口に出してあれこれ言う暇もなく、私たちはこの”倉庫”に入っていくことになりました。思ったよりも時間が過ぎていて、多少急ぐ必要があったのです。

改めて、私とNは倉庫に入っていくとそこは埃っぽい暗闇で、銃と一緒に車から持ってきた懐中電灯で照らすと、中には空っぽになった棚が延々と続いていました…

いや、こういうのが最適だと思います。そこはかつての死体安置所だった。 死体はただ一つも残っておらず、空っぽのロッカーとあちこちについた黒い染み、各所にはハンマーか何かが叩き付けられたような痕跡が見て取れました。

何十年と人が入っていないのかかび臭い空気とむっとむせ返るような嫌な臭いに顔をしかめながら私たちはさらに奥へと入っていった。

外から入ってくる日の光と懐中電灯に照らされた部屋の奥にはハッチのようなものが開いており、Nが喜々として近づいていくので見てみると梯子が下へ続いているのが分かった。梯子には錆が浮いており今にも壊れそうで普通入るのを躊躇するところだったのですが……

ですがNは、あの愚か者は違った。 私から懐中電灯を借りるとNは銃を担ぎ躊躇せず梯子を滑り降りていった……それが引き金だった。

変化はすぐさま起こった、錆が浮き、簡単に動きそうにはなかったハッチが急にガタガタとなりだし、地下から何かの反響音が聞こえてきた。それは、いくつもの、いや大量の重なり合った『声』だった。

ドイツ語、英語、日本語、中国語、ロシア語いろんな言語がまじりあって反響しあっていた。ハッチはぎしぎしと軋み、空のロッカーからはヒュウヒュウと風が吹き抜けるように何かが出てくるのが分かった、姿は見えないが何かが這い上がってくるのが私にはわかった。

私は逃げ出したかったが動けなかった。何せ灯り一つない建物だ、入り口から漏れてくる光で薄暗いといえる程度の明るさはあったが、動けば周りの何かに引きずり込まれるという根拠のない確信があった。 そして数分、何かに囲まれつつもその場で耐え続けた。

いつまでそうしていたかはわからない、永遠ともいえる待ち時間は一瞬で打開された。地下から銃声と共に光が瞬いた。 私はその銃声にはじかれるように駆け出した、何回か躓き、何かに服を引かれながらも外へと飛び出て、そして振り返ると闇から誰かが、いや彼らが私をじっと見つめていた。

実体がないのにそこにいる彼らは影の重なり合った何か……だったと思う。それが今にも中からあふれ出して来そうなほど濃密な塊になって、黒く濃くなってきたところで……

それをかき消すように銃声が鳴り響き、光が瞬いた。転がり出るようにNが外に出てきて、ありったけの残弾を闇に叩き込むのが分かった。闇の中の彼らにそれが効いたかどうかはわからなかったが、Nは扉を閉めると驚くべき速さで扉を元通りに封印しなおした。

しばらくして、上司だけが私たちのもとへとやってきた。彼は私たちを見ると何も言わずに私たちを車へと連れて行った。 「お前たち入ったな?何を見た?」

上司のラスプーチンも凍死させそうな言葉に私たちは見たものを語る以外の選択肢はなかった。

上司Kは話を聞くとダッシュボードからウォッカを取り出し私たちに一杯ずつ飲ませ、無言で車を出した。

「見たものについて何も触れずに報告書をかけ、あとはなんとかする」

私は彼が頼もしく見えたが同時になにか一抹の不安がよぎった。
ついでにこの後、管理人からのクレームによりしこたま怒られたのは言うまでもない。

 その後、私とNはあの建物で全て無かったことにして報告書を書いた。 収容所はその後取り壊されて緊急時のための物資集積所の一つになったが、あの建物は爆破処理された挙句に地下はコンクリートで埋められたらしい。 確かになんとかしたわけだ、物理的に。

今思えば……そうだな、上司は死なない程度にアブナイ案件を踏ませて警戒心を植え付けようとしていたんだと思う。俺たちの職場じゃこういう事は稀にある。正確にはそういう話が与太話としてあちらこちらで漂ってる。

ところでだ……ところでだがどうしても忘れられないことがある。彼らがいろんな言語で言っていた何かの事、そしてNがその後教えてくれた彼らの姿だ。 彼らは彼らの言葉で助けを求めていた、少なくとも日本語と英語とロシア語で助けを求め、故郷へ帰りたいと泣いていたのは間違いない。

もしかして彼らはただ帰りたかっただけじゃなかったのだろうか? 服を引いたのは自分も一緒に外に出たかったからじゃなかったのだろうか? そう思えてならないのです。そう、少なくとも私はそう思ってる、Nは違うようだったが……

Nは私が彼らに同情しながら言葉について語った時、地下で見たものについて話してくれた。それは明らかに人でも霊でもなかったらしい。 そこにいたのは大量の何かが混ざり合ったキメラのような化け物だったらしい、そして自分を取り込もうと襲ってきたそうだ。

私の聞いた言葉、Nの見た怪物、それが何だったのかはわからない。 真実を明らかにするつもりはないし、追及するつもりもない。

でも、ただ一つだけ確かなことがある。幽霊か、怪物か、それに類する何かなのかは分からないがこの世の中には得体のしれない何かがいる。もしくはある。

だから、暗闇に入り込むとき、廃墟を探検するとき、必ず備えをした方がいい。
好奇心に殺されない為にも絶対に……



ペンネーム:karkaroff
2024/1/20配信 https://youtube.com/live/yzYnHtWAfCA?feature=share
恐怖のご提供フォーム https://forms.gle/moSxg7vgMFYqx7r37
※ご投稿内容に改行や誤字脱字修正等の加筆をしていることがあります。

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