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褒め倒された思い出
幼少期から、あまり褒められた記憶がない。
兄弟が多かったのでそこまで手をかけられなかったこともあるのだろう。
勉強は人並みにできたが、人並みから突出したことはない。
運動は苦手で中高生と続けた卓球も人並みかそれより少し下のレベルにしかならなかった。
絵を描くことは好きだったが、趣味の範疇から出ることはできなかった。
人より秀でた能力はほぼ無く、気が付いたらそのまま社会に放り出されていた。
社会に出てからもそこまで褒められた記憶はない。
仕事を与えられれば人並みにはできたが、何をやっても一番にはなれなかった。
過度な期待を受けたこともあるが、大抵は答えきれずに潰れて期待はずれだとぼやかれる。
可もなく不可もない、そういう評価を受けて過ごしてきた。
自己肯定感が地べたを這うように生きていたが、1人だけ自分を褒め倒してくれる人に出会った。
自分の仕事をしても『よくやってるね!』
手が空いて他の人の仕事を手伝っても『えらい、ありがとう!』
売り場ポップを描けば『すごい!キレイ!』
気になったところの掃除をしても『ありがとう!よく気が付いてくれるね!』
30を大分すぎてからの話だが、ここまで褒められたのは人生で初めてだった。
本当に初めてだった。
最初は謙遜していたものの、あまりにも褒めてくれるので途中から『ありがとうございます!その言葉で頑張れます!』と返していた。
その人と働いていると、気分が晴れやかになった。少しくらいのストレスも吹き飛んだ。
風に吹けば飛んで消えそうな自己肯定感は、多少の雨くらいなら耐えられるくらいに育っている。
その褒めてくれた方と、自分はもうすぐ離れることになる。
その人と離れてしまったら、おそらく二度とこれほど褒め倒してくれる人と出会うことはないだろう。
多分私はその人のことを一生忘れない。
これからは褒め倒してくれたこの人を思いながら、自分だけでも自分を褒め倒してあげようと思う。
そして、その人が自分にしてくれたように
他人を褒め倒して生きていきたい。
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