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読書とヒーローアカデミア

丸亀うどんの持ち帰りに呼ばれてリビングに降りて行くと、娘に強制的に「僕のヒーローアカデミア」の映画特番を見せられた。
クイズ形式になっており、最初は「こんな本編と関係ないの当たらないよ!」と憤慨していた娘だったが、文化祭のバンド演奏シーンで「お茶子が空中に浮かせた客は何人でしょう」という問題をしれっと正解していて怖かった。
夫は、早く私にも新シリーズを見てほしいと言った。
「でも、おつらいんでしょう…?」と聞くと、「いやあ、前シーズンに比べたら、全然!」と答える。「えー」と娘は抗議の声。「そりゃ君はつらいかもしれないけど」と、今度は夫からうっすらとネタバレをしてくるので、なるべく早く見てしまわなければならない。

うどんは、すだちおろしうどんを食べた。
歳を取るごとにすだちが好きになる。なぜだ。

書斎で娘の勉強に付き合いながら、ソファーに寝転がって読書をした。「鬱の本」という、さまざまな「鬱」にまつわる書籍を紹介する人々の一冊の中で、「もうなにもいいことがない。たとえいいことがあったって幸せになれない」という言葉にぶつかり、思わず本を胸に置いて目を閉じ深く溜息をついた。胃がぎゅうとなる。なにしろ書き出しが「乳首がちぎれかけている」だ。

乳首がちぎれかけている。全ての人が敵に思えて逃げ帰った晩、乳首の根元が裂けていた。右乳首、お前もか。私の絶望を養分にするように乳首の亀裂は拡がり、私の精神をも裂いた。
殺してくれ。もう何もいいことがない。たとえいいことがあったって幸せになれない。私の呪いは誰にも解けない。

布団からの頼り/梶本時代

こういう文章に出会ったときの、得も言われぬ、胃から胸へと広がる泣きたいような、この感覚はなんなのだろう。「悦び」か。恍惚感か。私はファンシーなデコを施したメモ帳に一文を写し取った。頭の奥がじんとして、人間という動物の不思議を想う。いったいこれがどのシナプスにつながって、なんの作用を生んでどう生態系に影響していくのか。

思考の海から引き上げて、頭上を見上げると、娘は何時間も数学ばかり解いている。他の教科もやるよう促して、今度は昆虫にまつわる本を図鑑と照らし合わせながら読み始めた。

オリンピックは、柔道と、女子のスケートボードを見た。
重々しい柔道の試合からスケートボードにスイッチすると、明るい空のコンコルド広場で、選手たちが、技を失敗して転げては小首をかしげたり天を仰いだり、成功しては喜びのハンドサインをしている。眩しさにくらくらした。
がんばって起き続けて柔道の阿部一二三選手の二連覇を見届けることができた。最高の気分で布団に入り、熟睡をした。

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