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1-6,ハチミツ/Good-Bye

ハチミツ/Good-Bye

「コーヒーにハチミツを入れるとダイエットにすごくいいんだって」

「コーヒーはブラックで飲むもんだ」って言ってた割にはまた残してた。
本当に好きだったかどうか、今となってはわからない。
今日は私は、放ったらかしな思い出や明日を捨てにやってきた。
忘れたい事は全部覚えてて、忘れた事が思い出せないや。
部屋から出てきた君は私を振った時と同じ顔で、私を振る前と同じ顔で話をしようとしてる。
しかも、裸足のまんまで玄関まで出る癖は直ってないね。
セルフケアしなくちゃいけない。
戻った晩に全てを詰める旅行鞄に。

「コーヒーにハチミツを入れると健康にすごくいいんだって」

少し長い前髪や、はにかむような笑い方や
少し走る喋り方も、全部好きだった。
人から聞いた話を、自分の事のように話すその適当さも私のものだった。

「コーヒーはブラックで飲むもんだ」って言ってた割にはまた残してた。
本当に好きだったかどうか、今となってはわからない。
今日は私は、放ったらかしな思い出や明日を捨てにやってきた。
忘れたい事は全部覚えてて、忘れた事が思い出せないや。
君の部屋に置いてた荷物を一つ残らず鞄に詰めて、
「お邪魔しました」と玄関へ向かった所でテンパって、
私は靴を履けずに転んだ 。「大丈夫かよ」って君が来るんだ。
私は言う「放っといてよ」って。
「飲んでけコーヒーの一杯でも」って。

「コーヒーにハチミツを入れると健康にすごくいいんだって」
「それ、私が前に言ったセリフだよ」

君は「コーヒーにハチミツを入れてみな」って、一滴も残さずに飲み干した。
本当に好きだったかどうか、今となってはわからない。
今日は私は、放ったらかしな思い出や明日を捨てにやってきた。
忘れたい事は全部覚えてて、忘れた事が思い出せないや。

人から聞いた話を、自分の事のように話すその適当さに、幻滅したかった。

ハチミツはコーヒーの中に吸い込まれて消えていった。

少し長い前髪や、はにかむような笑い方や
少し走る喋り方も、全部好きだった。
人から聞いた話を、自分の事のように話すその適当さも私のものだった。

「コーヒーにハチミツを入れるとダイエットにすごくいいんだって」
「それ、私が前に言ったセリフだよ」 





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