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#008 母暮ALS とにかく体重維持

うちの母は食べられるものが少ない。
草食動物のようなわずかな優しい食物で生きているような人だ。

ALSの栄養指導で、体重維持が最重要課題だと言われた。体重が減ると症状が進んでしまうらしい。栄養のバランスとか体にいいから食べさせたいとかは考えないで「とにかくカロリーです」と指導された。

母は子どものときからお肉が食べられず、野菜だけで育ってきている。にんにくや匂いのきついもの、香辛料のあるものが食べられない。

ALSになってからは今まで食べれていたものまで美味しいと思えなくなり、極端に食べられるものが少なくなった。さらに味覚が敏感になってしまい「酸っぱすぎる」「甘すぎる」「味が濃すぎる」と食が進まない。

ならば好きだったクリームパンやシュークリーム、フィナンシェだったら食べるだろうと買ってきたが「ただ甘いだけとしか感じなくなった」と不思議そうな寂しそうな顔をする。

こうなると毎日食事を用意する側は頭を悩ます。なんとか食べられるもので過ごしてもらうしかない。なんでもいいから食べてほしい。ALSになってから10キロは痩せてしまっているのだ。

唯一食べられるのがお寿司。生魚は成人してから少しずつ食べられるようになったもの。これは会社勤めのおかげ。

酢飯だとさっぱりしていてお米も食べられるというので、にぎり寿司、手毬寿司、手巻き寿司、海苔巻き、ちらし寿司…、近所の寿司屋やスーパーのお寿司を手を変え品を変え飽きのこないように毎日用意している。

「お寿司を毎日買っています」というと贅沢だと思われるかもしれないが、これしか食べられるものがないのだから仕方がない。けして高級なお寿司を買っているわけではなく、惣菜と同じくらいの値段のもの。ランチサービスや夕方の特価品なども利用しながら、自宅の半径1キロのお寿司売り場をあちこち回っている。そもそもそんなにたくさんの量を食べない、1パックを2回にわけて食べたりもする。

しかしある日、緊張がはしる。
あんなに毎日「お寿司なら飽きない、毎日でも平気」とまわりを呆れさせていたのに、突然「お寿司が美味しく感じなくなった」と言ったのである。母の顔を見たまま時が止まってしまった。お寿司が母の食生活の中心なのに、他にどうしたらいいのか。

「お酢を入れすぎじゃないかしら」と言い出したときから嫌な予感はしていた。一緒に食べていたけどそんな感じはしなかったから。味覚が変わりすぎている。

お寿司以外のものだと、蕎麦かそうめんか、うどん。
ほとんどお腹にたまらないか、カロリーもない。
私の作ったミニお好み焼きも食べるけど、これはお昼に1枚食べると決まっているから、夜にも食べたいわけではない。

お寿司でお米が食べられなくなると体重が減ることになるので、今まで1日1本飲んでいたエンシュアを1日2本に増やすことにした。これは250mLで375kcal、病院で処方してもらっているドリンク。いろんな味がある。

現在の食事はこんな感じ

【朝】
ちくわ1本、エンシュア半分
バナナ(今はもう食べたくないとやめている)

【昼】
ミニお好み焼き(私が大量に焼いてストックしてある)
エンシュア半分

【おやつ】
ヤクルト1000

【夜】
お寿司
エンシュア半分

【夜食10時】
夕飯のお寿司の残り1,2貫
エンシュア半分

食べることがしんどい、何を食べても美味しくない、まるで苦行だといいながら、それでも今やるべき任務のごとくがんばってくれている。

現在は43キロ~44キロをいったりきたり、毎朝測定してカレンダーに記入。44キロ台に乗るとふたりで喜んでいる。身長は156くらい。


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