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#018 母暮ALS 胃ろう

胃ろうについては相当ネガティブなイメージを持っていた。だからALSの治療で次の段階に進むとなると胃ろうについて避けて通れないと思うととても気が重かった。

医師はやるのならばすぐにでもやるべきだという見解を述べつつ、私や母の質問にとても丁寧に答えてくれた。その上、世間で誤解されている胃瘻に関する情報やメディアの問題についても簡単なこれまでの経緯も教えてくれた。素人のめんどくさい質問に真摯に答えてくださった。

私たちの誤解は、老人の延命目的の胃瘻と、その他の病気や事情による胃瘻とをすべてごっちゃにしていたことによる素人の浅い想像の範囲での疑念だったということに気づいた。

とはいえ、まだ何か抵抗感があったのは、現在母は食欲が減ったといっても口から飲食ができているし、健康で綺麗な胃に穴を開けるという外科的なことに対する単純な拒否反応だった。胃瘻を作ることによって病人としてのステージが急に上がってしまうような漠然とした恐怖感とまだ正面からALSを受け入れたくない気持ちもあったのかもしれないと思う。

しかし、このままでは徐々に食べられなくなることは明白で、体重が減ったら病状もすすむ。嚥下の機能低下がやってきたら口から薬も飲めなくなる。寿命に直結している。しかもそうなってからの手術の方が大変なので、どうせするならばまだ元気なうちに準備しておいた方がよいとのこと。

少しでも病状の進行を遅らせる努力をして長生きをして欲しい気持ちの中で論理的に考えたら、私たちに選択の余地はなかったけれど、医師が丁寧に話を聞いて説明をしてくださり、素人の質問に向き合ってくれたから、私も母も胃瘻造設をするというプロセスを納得して決定することができた。納得感の中で医療の選択をしていけることは非常に恵まれていることだと思う。私は海外で生活している時にローカルの病院にも何度か行ったこともあるので、日本の医療システムや医療従事者には本当にいつも頭がさがるし、この国でよかったとつくづく感じる場面が多い。

ということで、6月に胃瘻造設をすでにした。すると決めてからはトントントンとすすんでいく。手術前々日に入院して、手術自体も30分か40分か、とにかくあっという間に終わって出てきた。

術後2,3日は痛い痛いと言い、こんなに痛いなら手術なんてしなければよかったと泣き言を言っていたけれど、リハビリさんに「そんなことない、これからしんどくなって痛くなって薬が使いたくなっても口から飲めない、血管も弱ってダメってなったら、胃ろうが使えるんだから今元気なときにやってよかったのよ」と力強く言い切ってもらってから、母の表情がとても明るくなって何度もこの話を聞いた。言葉の力ってすごいなと思うのと。いいタイミングでいい言葉をありがとうと心の中で理学療法士さんにグッジョブを送った。

日ごとに痛みが和らいでいき、廃液の管も、点滴も、酸素や心電図のコードも外れると体が自由になり、1週間後に抜糸すると、晴れ晴れとしてずいぶん楽になっているように見えた。

娘の私には、呼吸器とカフアシスト(痰とり)の練習。これはもう自宅で始めているのだけど、あらためて数値の再設定をして新しいマスクを使用してみた。質問もいろいろできたので入院すると医療と近くなっていいなという実感。あとは、胃ろうの周りの洗い方と、なんといってもこちらがメインで胃ろうからラコールを入れる練習があった。これは絶対にマスターしなければならないこと。

胃ろうの道具の扱いや、消毒のこと、ラコールを入れる手順、メモをとったり、看護師さんに見られながら自分が実際にやってみたりする。まるで看護師見習いのよう、気がひきしまる。これが本当の看護師1年目とかで先輩に教わっている身ならもっと厳しい口調で指導されているのだろうか。優しく教えてもらえてありがたい。
夜寝る時に手順を反芻して眠りにおちたら、夜中に目が冷めて手順が気になってしょうがなかった。どの看護師さんも丁寧で親切に教えてくれるのだけど、自宅に帰って一人になったら何か不明点がでてくるのではないか、ちゃんとできるのだろうかと自分では意識はしていないけど不安があったみたい。最終日の看護師さんがこれまたとびきり優しくて、退勤前にもう一回確認しときますか?と病室に来て「動画とりますか」と言ってくれた。のちにこれが大いに役立った。メモより動画だね。

胃ろうの傷は抜糸までは痛々しかったけれど、糸をとってかさぶたをとると意外に綺麗だった。毎日経口部の周りを洗ってプロペトを塗っている。肉芽ができないように気をつけなければいけない。できても塗り薬をすぐに塗れば大丈夫とのこと。

胃ろうの道具は管と注射器、ラコールの口の3点。これをミルトンで消毒して使用する。ラコール(NF配合経腸用半固形剤)は1袋300gで300kcal。これを空気の圧で胃に流していく。30ml水→ラコール→水100mlの順。

うちはまだ口から食事が取れているので必ずしも毎日胃ろうを使う必要はないので、週3くらいにしておこうかと思っている。エンシュアはそれに合わせて1本か2本を毎日引き続き飲んでもらう。

胃ろうは必ずしも作ったから使わなければいけないわけではなく、その人の状態に合わせて使用できる。例えば、水分だけは胃ろうからとか、呑むのが好きな人だったら胃ろうでお酒を少し楽しむ人もいるみたい。食事を全くしなくて胃ろうだけ毎日5袋くらいしている人もいるらしい。うちはしばらくは母と私の都合に合わせてやっていこうと思っている。

胃ろうというカロリー摂取の新たな方法が手に入り私の安心感にもなったし、母の食べなくちゃいけないというプレッシャーからの開放は大きかった。
今は「やってよかったね」と言っている。




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